「反応工程」作:宮本研、演出:千葉哲也(@新国立小劇場)
新国立劇場のフルオーディション企画の第二弾。
昨年の4月に上演する筈だったこの舞台、緊急事態宣言の発出で中止となって
満を持しての公演再開。14名のオーディションで選ばれたキャストが再結集した。
作者の宮本研と言えば「美しきものの伝説」という作品を何度か見た。
時代の波に抗いながら懸命に生きていく人たちを描いた群像劇。
今も「美しきものの伝説」は何度も再演がいろんな劇団で上演されている。
その宮本研が書いた戯曲。1958年に初演の上演がされたらしい。
戦後13年目のことである。
本作は1945年の8月から時を超えて1946年の3月の事までが描かれている。
三池炭鉱のグループである。九州北部の三井の化学工場がその舞台。
戦況が悪くなり毎日のように空襲警報が鳴る。
戦争が終わりを迎えようとしている8月上旬の数日。
広島に新型爆弾が投下され、長崎にも投下された。
まさにその時期にこの工場ではロケット砲の発射薬となる
ジ・エチレングリコールの製造を行っていた。
昔からここにいる工場の人たちと
学徒動員で勤労奉仕に来ている学生たちが一緒に働いている。
夜を徹しての作業。交替で24時間工場を稼働させ化学反応の工程を見守る。
まっすぐに生きようとする学生たちと
現実に向き合い何とか生きてこの状態を維持しようとする
工場の人たちが対比的に描かれる。
宮本研はこの1945年は20歳前後だったのでまさに自らの事に重ね合わせて描いたのか?
宮本研は九州大学の学生だった。
天井の高い劇場の空間を活かして工場のセットが緻密に立体的に作り込まれている(美術:伊藤雅子)。
工場で働く太宰(内藤栄一)は若い学生田宮(久保田響介)に「レーニン」の
著作などを貸し与えている。この時期こうしたものを読むこと自体が禁じられており、
憲兵などがそうした行為に目を光らせている。
学校の先生は教え子に赤紙が来ると知らせにくる。
日本のために戦争に行って日本を守ってください!という教育の下で
そうした教師を演じるしかなかった人たち。
学徒動員されている「影山」(奈良原大泰)の所に赤紙がやってくる。
徴兵を拒否してその場からいなくなり逃亡する影山。
戦時中の現実が冷徹な視線で描写される。
熱い工場の中、彼らの青々しくも熱い会話が繰り広げられる。
この国を、この現状を何とかしたい
という若き学生たちの熱量が伝わってくる。
やり場のない熱量は、ある種、青春の特権でもありむなしさでもある。
対比的に描かれるこの工場で最高齢のベテランである責任工の荒尾(有福正志)がいい!
日々、目の前の工場の整備とメンテナンス調整を淡々とこなしていく。
そこにはいろんなことが変わっていく現実を見つめつつ、
今、目の前にあることにきちんと向き合うことの大切さを教えてくれる。
戦争で負けるだろうことも、この工場が時代の変化について行けないだろうことも
すべてわかっていながら、それでも日々淡々と仕事をこなしていく。
この姿を見ると今、コロナ禍で淡々と働いている医療従事者をはじめとする
様々なエッセンシャルワーカーの高貴さと重なって来た。
宮本研はこうして高潔な人たちを描き続けていたんだろうか?
千葉哲也の力強い演出がそれを後押しする。
休憩20分入れて上演時間2時間45分。25日まで。