「丘の上、ねむのき産婦人科」DULL-COLORED POP vol.23(@ザ・スズナリ)
作・演出:谷賢一。この数年、面白く興味深い作品ばかり連発している谷賢一、
今回もやってくれた。綿密な取材に基づいて、そこから再創作し
再構成した手法は「福島三部作」に通じる谷賢一の真骨頂ともいえる手法。
膨大な手間がかかっているだろうが、その手間を裏付けるだけの結果が出ている。
今回の舞台は「ねむのき産婦人科」に集まる人たちの群像劇。
プロジェクションマッピングされた映像が上演前に流されている。
さわやかな青空の映像。そこに集まる6組の男女。
私自身、残念ながら子供が出来なかったので産婦人科医院に行ったことはない。
30代の後半に不妊治療をやったことはあるが1年余りで挫折した。
本作を見ると30代後半で不妊治療に成功するするカップルは
1%くらいなのか?ということを知り、
当時「タイミング法」で四苦八苦していた私は、
これを見てその現実を思い知らされた。
舞台の6組のカップルにも様々な理由と事情を抱えてこの産院にやってくる。
面白いのが二人のカップルが登場すると彼らのペルソナを描いたかのように、
年齢と職業、年収、出産歴や病歴などがプロジェクションマッピングで投影される。そして、このカップルの抱えている事情が二人の会話を通して
明らかになってくるというもの。
ティーンエイジャーのカップルから40代で不妊治療に頑張る女医と
作家カップルまで。
私が見たのは「A」プログラム。実は本公演はこの「A」プログラムと
「B」プログラムがあり。「A」は男性俳優が男性を女性俳優が女性を演じるのだが、{B}はそれを逆転させ男性俳優が女性を、女性は優雅男性を演じるらしい。
両方見るとその違いが生身の身体を通して感じられることだろう。
個人的に一番興味深くて笑えたのが「六場」の
妻が李そじん、夫が東谷英人が演じたもの。
臨月間近の会社員カップル夫は多分35歳会社員年収500万
妻は30歳会社員年収300万だったか?
妻は産休に入り、休日だろうか二人で来年以降コロナ禍が終わったら
どこかに行きたいねと話しあうシーン。
しかし、そこには子供が居て「おしっこー」とか「お腹すいたー」とか
「ギャーギャー」泣きわめいたり、などが付きまとう。
その様子を李そじんが、突然子どもになったりして演じるのが面白い。
そしてまだ生まれぬ子への想いと、
この子が安全に生まれて来てくれるのか?という想いが
ないまぜになっている情感が見ている私たちにダイレクトに伝わって来た。
また第2次ベビーブームと言われた1971年の時点での出産の様子と、
その100年後の2071年の様子が対比して描かれるのも興味深い。
時代とともに男女の在り方は変わり、
出産に対する考え方も変わっていく。
それを通して私たちは様々なことを感じ考える。
上演時間約2時間。8月29日まで。その後、大阪公演の予定。