「全部あったかいものは」コトリ会議 2022年ツアー(@こまばアゴラ劇場)
作:山本正典、演出:山本正典とコトリ会議。
調べると2017年に以前のコトリ会議の公演を見ていた。
詳細は、https://haruharuy.exblog.jp/27884755/
以下、ストーリーのネタバレあります。
が、読んでから見てもたぶん十分楽しめると思います。
が、事前の情報が不要の方はご遠慮なさった方がいいかも知れません。
本作の舞台はある清涼飲料工場の旧い職員のための休憩室。
畳が敷かれているスペースで、俳優の大部屋にも似た感じ。
ある日の夜、この清涼飲料の工場のラインが停止した。
調べると何とラインのあちこちにペットボトルのキャップが押し込まれ
工場のラインが動かなくなってしまったと。その数3000個!
いったい誰がこんなことをやったのか?
工場のラインの責任者たちが集まり対策会議をする。
警察もやって来て、さらに工場長もかけつけるという状況。
しかし、休憩室はその騒動から無縁のように静か。
さらに、押し込まれたペットボトルのキャップはこの工場のメーカーが
作っているものではないものだけが押し込まれていた、という。
ある種の「悪意」なしには起きえないこと。
なぜ、この工場でこうしたことが起きたのだろうか?
根底の格差の問題が見えて来る。
正社員の工場で働く人たち。非正規労働で派遣されてまるで日雇いのように働く人たち。
ここには同一労働同一賃金という制度はないのだろうか?
同一労働をしているのに身分も待遇もそして将来の補償も大きく違う。
その分岐点は何なのか?
自分のチカラだけでそれを選ぶことは果たして出来るのか?
そして、この休憩室にはここで人が亡くなったかもという伝説が言い伝えられており、
その象徴みたいなものとして顔にパックをした女性が登場する。
そして、いちばんの謎は彼女が自らの指を折っていくこと。
野田秀樹が「THE BEE」という舞台で相手の指を一本一本折っていくシーンがあるが、
それを少し思い出した。
野田秀樹の演出では折れた音を割り箸を折って「ぼきっ」と言う音を響かせたのは
いまだに記憶に残っている。もとい。
その指を喪失していくシーンがその後、連鎖していくのだが、
それは、どういう意味なんだろう?
そして、この指の喪失の意味がわからないのだが「何だこれは?」という
強い印象を私たちに与えるものでもあった。
同時に、工場での人間関係が描かれる。
ある種、どろどろの関係とでも言えるような。
様々な人たちの関係が交錯し、そしてセクシュアリティを感じさせるシーンもある。
結婚と不倫と片思いなどの感情がこの休憩室のちょっとしたやり取りで見えてくる。
ただ、見ていると様々な要素が拡散していくような感じもあり
良くわからなくなっていくという意見もあるかもしれない。
さらには、俳優が大声で喋りすぎちゃうか?というのもあるかも知れない。
その意図は何なのか?
ブラックホラー的な要素は「コトリ会議」的なるものと言っていいのかどうか?
二作品しか見ていない私は語ることが出来ないのだが。
でも、なんだか独特のある種のひっかかりがある。
そのひっかかかりがこの社会に対する不満なのかどうかはわからない。
とはいえ、
この現実世界はこのままでいいのか?という無言のメッセージが
この舞台全体を通して伝わってくるのだった。
大人向けのホラー寓話?
ラストシーンの仕掛けが微笑ましい。初日観劇。
この日は15分ほど出演者全員が舞台に上がって、
制作の若旦那家康さんがMCでアフタートークが行われた。
上演時間 約90分。9月21日まで。10月に豊岡公演がある。