「あたしら葉桜」iaku(@三鷹市芸術文化センター星のホール)
作:横山拓也、演出:上田一軒、出演:林英世、松原由希子(匿名劇団)
岸田國士戯曲賞の冠を持つ現代戯曲の創始者とでも言える作家の岸田國士が
(初出:「女性 第九巻第四号」1926(大正15)年4月1日発行)に書いた戯曲
「葉桜」の朗読と、それにインスパイアされて横山拓也が書いた現在を舞台にした
大阪弁の「あたしら葉桜」の演劇の同時上演。
まずは岸田國士の「葉桜」の朗読から。
8畳の端正な和室、そこに入ってくる着物姿の母親と洋装の娘。
娘は19歳。紹介された島田さんだったか?と娘は結婚するかかどうするのか?
娘はいったいどう思っているんだろう?みたいなことを母親が娘に問い詰めていく。
二人だけの芝居。父親は仕事に出ていて不在。
あの時代の女性の立場が良くわかる。
岸田國士は、弱い立場に居る女性に寄り添ってこんな戯曲を書いたんだということが伝わってくる。
大正15年にそうしたことが書かれており、女性の幸せや女性の人権みたいなことが
書かれていたのはとても先進的だったのではないだろうか?
娘はあの方と結婚して幸せになれるだろうか?
ということを心配して問い詰めていく母親。
娘は恥じらいもあるだろうし、島田さんも当時の男性として、
やや、つっけんどんに娘の前でふるまっていたのだろう?
本心はいったいどこにあるのか?みたいなことが、日常的な会話だけで構成される。
普段の会話なので無駄な言葉もたくさんある。
でも、それが日常の会話のリアルなので岸田國士はそれを強く意識して書かれたのだろう!
そして、今でも岸田戯曲が繰り返し上演されている意味はそこにあるのでは?
見ていて、こうした戯曲の世界観が戦後の小津安二郎と野田高悟が書いた松竹映画や、
その後の向田邦子のシナリオにもつながっているのでは?と思うのは私だけでしょうか?
しみじみとした余韻が心地よい!本作は約35分の上演。
その後5分の転換があり「あたしら葉桜」が始まる。大阪の母と娘の話。
横山拓也さんは大阪の母子の話を何度も書かれている。
大阪出身だけあって、リアルな大阪弁が聞いていて気持ちがいいし笑える!
俳優さんも大阪の方なんやろうか?
戯曲「葉桜」の朗読が先にあったので、そこから設定や名前などを援用して
まったく新たな母と娘の物語に仕立て上げている。
そして横山さんは、現在的なテーマをそこに盛り込んでいく。
(以下ネタバレになる可能性がありますが、読んでから見ても多分大丈夫やと思いますが、
これからご覧になる方はご容赦くださいませ。)
LGBTQのテーマが現在の大阪の母子の関係の中で描かれる。
母が娘の幸せを願うのは変わらない。
(余談ですが、そういえば小津安二郎の映画で「晩春」(1949年)という傑作があるが、
それは父親と娘の話。父親が娘の幸せを願うのだが、ただこの映画では父とその面倒を見る娘という前提があり
この作品とは大きく違っているのではあるが。何だか似ているような気がするんです。)
劇中で交わされる夢の話が秀逸。娘が語る夢の話があり、
その後に母親が空想の世界を娘の前で語る。
その一人二役の芝居をする姿を見ていると「泣けてきて」仕方がなかった。
それこそ、見てのお楽しみです!こちらの上演時間は40分少々だったか?
合計90分弱の秀作。どちらも「しみじみ」とした形で家族のことが綴られている。
4月23日まで。