春風亭昇太。46歳。独身。
赤堤に一戸建ての家をもち、下北沢に落語の資料を置いた部屋を借りている。
いったいどんな噺家なんだろう?
「情熱大陸」でみたドキュメントの印象しかない中、
本多劇場に電話すると、当日券があるというので、
雨がザンザン降る中、下北沢に向かった。
舞台が開くと、ハンチングにジャージ、
ジーンズに黒皮のカジュアル靴といういでたちで現れた。
昇太は、普通の世間話をしているだけなのに妙に笑い声が多い。
反応しすぎじゃあないの?と少し引いた。
ああ!これはいわゆる贔屓筋の常連さんばかりが来ている高座なのかいと、
一瞬頭の中を不穏なものが遮った。
身内でやる、身内話ほど、身内だけ爆笑を誘い、
僕みたいな初見のものは、どんどん遠くにおいていかれるものだから。
今晩、オールナイトニッポンでも同じことを話そうと思っているんですけどといって、
浄水器購入の顛末を細かに語り続ける。
でもこの前座以前のMCとでもいうのだろうか?
に対する、観客の余りの反応の良さに、正直いって僕はついていくことができなかった。
前座ではないが、ゲストで神田山陽の講談。
まだまだ若い山陽の講談は、喋りの勢いもあってなかなか面白く、
テレビ以外で初めて講談を見た僕は、
こういった世界があるんだなあという
演芸の世界のさらなる奥の深さに驚いた。
そして着物に着替えて、昇太の登場である。
まずは「悋気の独楽」(りんぎのこま)。
マクラから本題になると、身内受けみたいなものも徐々に姿を潜め、落語世界に入っていく。
定吉の小僧さんの単純で純粋無垢なところが昇太のキャラクターに妙に合っている。
ところどころで三者が出てきて突っ込むのだが、
この突っ込み方の間合いの取り方が絶妙。
2話目は新作。題名はわからない。
3話目は「不動坊」。これも長屋の面々の馬鹿さ加減が見ていて
微笑ましくなってくる。
3話を終わってみると、最初に感じていた違和感も消えて、
あー面白かったといいながら、帰途につくことが出来た。
一見の客と贔屓の客。
特に独演会なら贔屓の客が圧倒的だろう。
しかし、昇太のようなある種有名な噺家なら、
新しい落語ファンをつかむことも、可能ではないだろうか?
せめて本多劇場の公演をあと1回増やして、
3回公演にしてみたらどうなんだろうか?
そこから見えてくるものがある筈だ。