仕事で少し遅れる。丁度、前座さんの高座が終わったところで飛び込む。
この公演を誘ってくれたNさんは、仕事のトラブルで結局来ることができなかった。
志の輔の声は独特のダミ声で、八百屋や魚屋のおやじさんにこのような声で
呼び込みをしている人がいたなあと思い出す。
声を出し続けている人の独特な声の進化系なんだろう。
1席目は「おどるファックス」という新作。吉田薬局の主人が
スプリングセールのチラシの印刷締め切り間際に、宣伝文句のことで
呻吟しているところに、間違いFAXが来る。息子と、カミサンが登場。
どんどんエスカレートする吉田薬局の主人がいい。志の輔の落語は
筋はともかく、練った語り口で聞かせる聞かせ方が上手い!
その真骨頂が二席目の「柳田格之進」。
浪人で囲碁が好きだった格之進。
商家の旦那と毎日のように碁を打っていた。
ある日、番頭が碁の最中に
旦那に渡した五十両が行方不明になり、番頭が柳田格之進のところへ、、、。
という話。
ここには武家のプライドや武家の娘の品格。
番頭の忠義心、旦那の度量や家のものを思いやるココロが溢れている。
そのさまざまな人の気持ちを志の輔は、淡々とした体言止を駆使した語り口で
演じる。柳田格之進の「間」が長いと感じていたが、その長さが後でグググっと
効いてくる。
そして、この演目では、人の赦しということが問われてくる。
「目には目を、歯には歯を」という思想ではない「赦し」の思想。
人間社会とは、お金と完全に切り離して考えることは出来ないものがゆえに
「業」が深くなり、人間関係に深い傷を残すことになる。
見ていて、魂が震えた。
その「業」を演じることに対して、志の輔ほど説得力をもった
噺家さんがどのくらいいるのだろうか?
教えてください。
その噺家さんの高座に是非行ってみたいものです。
観客の創造力だけにおもねる落語の凄さを実感した。