黒田育世のダンスは激しい。これでもかというくらい
強く激しい動きをする。関節や筋肉にダメージがくるのではないか?
というようなダンスが延々と繰り拡げられる。
長い暗転の中から口笛が聞こえてくる。
女の子がブランコにぶらさがりながら照明が徐々に明るくなる。
その子が踊りながら、泣き叫ぶ、まるで駄々をこねるように
寝転んでのた打ち回る。お母さんあれ買って、これ買ってというような。
奥でお母さんとも思える黒田育世が立っている。彼女の名前を呼ぶ。
「○○ちゃん!」と。
女の子は黒田の下へ駆け寄り、ときどき子宮回帰のように
ワンピースのスカートの中に頭を突っ込む。
童女のような女の子役の女性と黒田以外に7人のダンサーが加わり
群舞が始まる。
今回、初めてBATIKを見た人が、最初「どんびいた」と言った。
そう、黒田のダンスはあまりにも強く、見ているものをも追い込んでいく。
僕などは、その感覚が非常に面白いので大ファンなのだが
好き嫌いが大きく分かれる作家であることもまた、確かなことである。
激しい、9人のダンサーの群舞が続く。
ときどき、駄々をこねるように寝転んでのたうちまわったり、
大きな声で叫んだりする。今回は「ギャーアアアアアアア!」という
叫び声とも子どもの悲痛な願いともとれる声が特徴的だった。
10人目のダンサーが後ろの壁の中から現れてくる。
彼女は違うパターンのデザインの衣裳で舞台後方で踊り続ける。
まるで、彼女は転校生のようである。
今回のダンスから様々な事象が読み取れる。
母子の関係。幼児虐待。幼児期の精神的トラウマ。
自傷行為。母体回帰本能。いじめ。などなど。
女の子の子どもの頃の記憶を黒田育世は再生しようとしているのか?
そこに様々な事象が組み込まれ、複雑な社会と交わろうとしていく。
途中、途中で10人のダンサーたちが「わーああああああああ!」と
いいながら舞台中を駆け回る。学校の校庭で子どもたちが思いっきり
遊んでいるような。そして、転校生とも思える女の子のところにみんな
が駆け寄る。単なるダンスなのに、そんなことを思って涙がこぼれる。
ダンサーたちは次々と倒れていく。まるで死を想像させるように。
暗転。
ダンサーたちは再び息を吹き返し、舞台中を走り回る。
ひとりの女の子が壁に大きなチューリップの絵を描く。
ダンサーたちはワンピースを脱いで、裏返しにして、また着る。
と、いままでいろんな色の衣裳だったものが
全て真っ白になる。黒田のワンピースの後ろには
チューリップが描かれている。
童女役の女の子は黒田を追い続ける。
今回は世田谷パブリックシアターという大きな舞台での公演だった。
そのことを黒田は強く意識していたのだろう。
舞台の使い方がダイナミックで大胆である。
NOISMの「Triple Bill」で黒田が振付をしたのがこの劇場なので
構造を熟知している感がした。
最後に舞台後方の緞帳がはらりと崩れ、バックライトとともに
そこでダンサーたちが駄々をこねるような踊りを踊っている。
手前で、黒田と童女と転校生が踊る。
天井から無数の本当に無数の緑色をした紙吹雪が降り注ぐ。
歌舞伎のラストシーンを見ているようで、豪華絢爛なのに
悲しみを湛えている。そんな印象を残した舞台だった。
7月29日。本作は「びわ湖ホール」で1日だけの公演をする。
構成・演出・振付 黒田育世
音楽 松本じろ スカンク