一度だけ、フィレンツェに行ったことがある。
1泊しかしない大急ぎの旅だったが、街の美しさに惹き込まれた。
ここがルネッサンスの中心となった都市なのかと思い、
メディチ家っていったいどれくらいのお金持ちだったのだろうと想像した。
街中にウフィツィ美術館というのがある。
当時は改装中だったこともあり、美術館は入場制限が行われており、
長蛇の列が、午前中で何とか見られるか?と思ったのだが、
まったくそんな希望は消え失せ、泣く泣く見るのを、あきらめた。
そのウフィツィ美術館所蔵の「「受胎告知」が
東京博物館で見られるという。
これは、いかなきゃと思い上野へ向かう。
美術展に行くことがブームのようになっているのか?
本当に最近の美術展は混雑している。
それだけ関心の高い人が多いということでもあるのだが。
外国人旅行者らしき姿も見かける。
彼らは、この情報をどうやって知ったのか?
本館の一室のみで、「受胎告知」を見ることができる。
一番前で見るには並ばなければいけない。
20分ほど並ぶと、ようやく見ることができる。
ダ・ヴィンチの絵画、第1作と言われている。
完璧な遠近法と衣服の質感や量感、髪の毛の巻き毛の感じなど
見所が満載である。それを少しずつ移動しながら見る。
「受胎告知」が書かれてから500年以上が経つ。
保存状態がいいのにびっくりした。
本館の展示はこれだけである。
平成館に移動し、天才の実像に迫る。
この展示はウフィツィ美術館で開催された展覧会を
再構成したものだそうである。
それが日本語の解説つきで見られるのだからありがたい。
彼の絵画のレプリカが全点と彼の手稿に基づく
考え方や捉え方が展示されている。
それは幾何学、生物学、解剖学、機械の構造、
大きなブロンズ像をどうやって作るのか、
そしてそれを作るための仕組みをさへ考え出し作り出す。
人物像の比率についての考察。
黄金比になっている人物像。
などなど、興味深いことがたくさん展示されている。
見ていて思ったのは、ダ・ヴィンチはありとあらゆることに興味を持ち、
その興味を圧倒的な観察力と思考力でメモに残し、
イラストを描き、絵画を描き、ブロンズ像を作ったのだなあということ。
それは何ら関連性がないのではなく、
深く関係しているからこそ、深い洞察につながっていくということでもある。
ここには、学問の基本となるようなことが網羅されている。
僕たちが学校教育で学ぶことの様々なことが
カタチを代えて提示されているに過ぎない。
ということは、様々な学校教育の教科に貴賎などなく、
受験がある科目だけが重要な教科であるなどということは
完全に間違っているのだという思いを強く持つことになる。
そういった学校教育のルネッサンスとしても
この展示会は意義深いと言ったら言い過ぎだろうか?