清水宏という映画作家は、以前は全く知られていなかったように思う。
2003年の東京フィルメックス映画祭で
プログラムディレクターの市山尚三氏が映画祭の中で
何本かの清水作品を紹介していたのだが、
その時は都合がつかなくて行けなかった。
フィルメックスのパンフレットの中で
、蓮実重彦が「簪」(かんざし)という映画がいかに素晴らしいか
という文章を読んだ記憶だけがあった。
この度、シネマヴェーラ渋谷で清水宏特集をやると聞いて、
とにかく時間があれば行ってみようと思い出かけた。
新ユーロスペースの入っているビルの
4階がシネマヴェーラである。初めてのシネマヴェーラ。
木を生かした椅子が落ち着いた雰囲気を醸し出す。
ソファの色もグリーンで趣味がいい。
館主の内藤篤氏は、東大法学部在学中に司法試験に合格した弁護士でもある。
1958年生まれの今年49歳。
青森の弁護士、三上雅通氏もなみおか映画祭や青森美術館での映画祭の
プログラムディレクターをやっている。
弁護士という職業は、映画好きが多いのだろうか?
本作は16ミリフィルムでの上映。
やはり大スクリーンでみると保存状態のこともあり
パキッと見ることは出来ない。
フィルムセンターなどが行っているデジタル修復作業は、
古い映画のファンにとって有難いことだなあと痛感する。
しかし、その保存状態を気にしないような
興味深い映像が画面から溢れ出ている。
田舎の教会のある施設。子供たちが共同で暮らしている。
各チームに寮母さんのような先生がいて「お母さん」と呼ばれている。
施設は里山の中腹にあり、里山の裾野には線路が敷設されており、
ときおり蒸気機関車が通り過ぎる。
まるで理想郷のようなロケーションである。
と、同時に、強いノスタルジーを感じる。原風景がそこにある。
撮影は天気の本当にいい日だけを選んで行われたのだろうか?
全編に渡って強い日差しに照らされている。
これを見ていると戦争という言葉とは
無縁の世界観がそこにあるような気がしてくる。
1941年の作品とは思えない。
清水宏は小津安二郎と同じ1903年に生まれている。
そして、松竹に入社。
清水宏のことを語る人がいままであまりいなかった、
というのはいったいどんな理由があったのだろうか?