大人の麦茶、ついに紀伊国屋ホール進出である。
キャパ400人のこの劇場での6回公演。
少なくとも2000人以上のお客様が大人の麦茶を見ることになる。
2002年に設立された同劇団は
一貫して塩田泰造が作・演出を担当している。
塩田さんの人柄だろうか?
作品から生まれ出る世界は、肯定感に満ち満ちている。
人を受け入れ、人に優しく、ときには弱く。
そう「人間ですから」。
それは当然のこととして全てをひっくるめて引き受ける。
その引き受け方がいつも希望に満ちている。
それこそが塩田ワールドであり「大人の麦茶」の世界である。
日常を舞台にしてはいるのだが、
塩田さんが作り上げたファンタジックワールドであり
幸福感に満ちた独特な世界を提示する。
そのスタンスは今も、変わらない。
大人向けのファンタジーを日常的な世界で描けることこそ、
塩田泰造の「大人の麦茶」の良さなのではないだろうか?
昨年あたりから、アップフロントエージェンシーとの
共同製作が続いている。
今回の舞台も元モーニング娘の保田圭と
元ココナッツ娘のアヤカが出演している。
彼女たちの芸能界の立ち居地がまさに、
ファンタジーなのかもしれない。
汚れ役などのない女の子としての立ち位置とでも言うのか?
そのファンタジーに身を浸したい
アップフロント系タレントのファンたちが劇場に集まってくるようになる。
当然、観客動員数は増え、
今回の舞台のように大きな劇場での公演が可能になってくるのである。
ある種、商業主義的な構造を感じないでもないが、
それでたくさんのお客さんに見てもらえ、
今までより多くの製作費をかけられる環境を作っていける
というのはある種の正解なのだろう。
本作の印象は、まるで、向田邦子と松竹新喜劇と花登筐(はなと こばこ)が
一体になったような軽喜劇の体裁をとった人情劇というような印象。
舞台は大田区にあるもんじゃ焼屋「コハル」。
ここに集まる人々の物語である。
ストーリーは割愛。
ここでいろいろな人が出会い、別れ、再生に向かう。
舞台の作りはわかりやすく、説明的過ぎるかなと思うところもあった。
また、エピソードが多岐にわたって物語の推進力が
分断されがちな傾向も見られた。
これらの部分を整理して、説明的な部分を勇気を持って
削除していけば、もっともっと面白い舞台になる予感を秘めた公演であった。
保田圭のうたう「ゆりかごの歌」が今も耳に残っている。
北原白秋の作詞である。