松本尚久(現在は、和田尚久さん)という放送作家がいる。
「立川談志の最後のラジオ」という番組をやられていたそうである。
1971年とまだまだ若いのに、伝統芸能について詳しい。
彼のホームページをみて驚いた。
その彼が自ら主宰する「浅草見番寄席」である。
前回見た、桂吉坊がとっても面白かったので、
今回も足を運ばせていただく。
浅草の駅から「見番」まで少し距離があるので急ぎ足で向かう。
ぎりぎりセーフ。
台東区がきれいな街づくりを心がけているのか
この辺りの街灯や舗道が整備されていて気持ちいい。
しかも、浅草はそんなに人で溢れかえっているというような感じではないので、
仲見世、浅草寺周辺以外なら、ゆったりと街を散策出来る。
松本さんに挨拶をいただく。
開口一番、立川こはる。女性の噺家さん。
髪の毛が短く、着物も何というのか?
男さんが着る着物?とでもいうのでしょうか?を着ているので、
小僧さんのようにも見えてくる。
そして、柳家小満ん師匠登場。
小満ん師匠は1961年に桂文楽に入門。
文楽が死に、1971年柳家小さんのところへ移籍したそうである。
その文楽師匠の得意としていたらしい「心眼」を
松本さんのリクエストでまずやっていただく。
目くらの男が、茅場町の神社にお参りにいって、
目が開いてしまい、それから、というようなお話。
夢落ちなのがちょっと気になるが、なかなか面白い話だった。
人間の想像力と現実との差について考えた。
仲入り。笹木美きえさんという端唄のお師匠さんが、
舞台に上って三味線を弾いて端唄を唄ってくれる。
生まれて初めての体験。
浅草のしかも「見番」みたいな場所で「端唄」を聴くという、
それ自体が何故かうれしく、俄か風流人になったような、
ならないような気になってくる。
成瀬巳喜男が向島芸者の映画をいくつか撮っているが、
その中でこの端唄のようなものが必ずどこかで流れていたり、
お稽古している歌声が聞こえたりしているのを思い出す。
それが日常だった風景は映画と幻想の中にしか、
もうないのだろうか?
「梅は咲いたか桜はまだかいな・・・。」という
桃屋のCMでも有名なあれも端唄のひとつだそうである。
「さのさ」と「都都逸」などを説明しながら歌ってくれる。
どこがどうちがうのかわからないのだが。
「都都逸」とは、
三味線と共に歌われる俗曲で、
音曲師が寄席や座敷などで演じる出し物であった。
主として男女の恋愛を題材として扱ったため情歌とも呼ばれる。
七・七・七・五の音数律に従うのが基本だが、
五字冠りと呼ばれる五・七・七・七・五という形式もある。
だそうである。
その中で、
「三千世界の鴉を殺し ぬしと朝寝がしてみたい」(高杉晋作)
という都都逸を聴いて驚いた!
実は、終わってから「三千世界」という名前の焼き鳥屋に行こうと計画していたのである。
その偶然の一致にびっくり!
冬至の前の夜は何が起きるかわからない。
この日は、小満ん師匠から冬至にちなんで「柚子」を頂いた。
明日は柚子湯?
最後に、小満ん師匠の「富久」を聴く。
師走の年末ジャンボ宝くじのような富くじの話。
そこに幇間が登場する。
彼は、酒で何度も失敗しているのだが、
酒を飲んでしまうシーンが出てくる。
そのシチュエーションは火事見舞いの場所での話。
今より、数段寒かっただろう江戸の街は、
火を木造家屋で使いつつ、
密集した中で生活していたので
火事の起こる確率が高かったのだろう。
小満ん師匠の幇間の芝居が面白い。
面白い落語は時間が経つのを忘れてしまう。
その後、浅草三丁目の焼き鳥「三千世界」で
焼酎のボトルが7人で、5本空になる。
「三千世界」は恐ろしい。
鴉が来る前に、タクシーで帰宅する。
午前3時である。