傑作!朝日新聞の劇評からはこの傑作感は伝わってこなかった。
映画が1本1800円の時代に、
この舞台が1500円で見られるのは幸福である。
お金をかけて造り込んだ美術セットや
有名な俳優なしでも高い質の舞台が提供できるということが
何よりも勇気づけられる。
もともと、前田の小説「グレート生活アドベンチャー」を基に
書かれたものらしい。この小説は芥川賞の候補にもなった。
漫画を読み、ファミコンをしながら働かないで、
内田慈の部屋に居候をしている男が前田司郎である。
内田は以前、前田と関係があったのだろうか?
現在は不倫関係にある男が別に居る。
台詞の中からそのことがわかる。
内田はスーパーのお惣菜売り場でパートをしている。
前田のあまりにもいい加減な態度に、
どうしようもなさに、だらしなさに、内田は切れ、怒る。
当然だろうなと思う。
しかし、前田がそれを、さらに駄目駄目な感じで返す。
と、そのあまりにも駄目な感じから思わず笑いがこみ上げてくる。
こうやって言い逃れと理屈を自分自身につけながら、
暮らしていく男の哀愁が、笑いを誘うのである。
こういう男いるだろうなあとも思う。
男の現在の興味と言えばファミコンのRPGである。
隣に住んでいる男(安倍健太郎)が時々、
前田の住んでいる部屋に遊びに来る。
二人は延々とファミコンのRPGについての話をしている。
前田はカメラマンになりたいのか?その夢をあきらめたのか?
30歳になる男のもやもやが淡々と描かれる。
安倍との対比が面白い。
元暴走族だった、安倍は30歳を目前にして結婚しようとする。
前田は何かが終わらないと始まらないといった具合で日々を過ごしている。
働いていないので、いろんな人にお金を借りている。
リリー・フランキーの「東京タワー」にまさにそのようなことが出てきていた。
リリーさんも、かなりの借金をいろんな人にしていた時代があったらしい。
舞台が暗転すると、内田の部屋が、過去の前田と妹(石橋亜希子)の
住んでいた部屋にスリップする。妹は数年前に死んだことがわかる。
妹との何気ない会話がいい。
何気ない会話が家族ということを意識させる。
何気ない会話が兄妹ということを意識させる。
それは独特の関係である。
水沼健(「MONO」俳優&「壁の花団」主宰)が書いていたのだが、
ドラえもんや鉄腕アトムなどのロボットに友人はいないが兄妹はいる。
その関係のほのぼの感はその関係の自明性に由来する。と。
その関係は利害関係などなく、存在の全てを肯定されている。
兄妹は緊張関係にならない関係性を特徴づけ。
(それは、他人とも、男と女とも違う関係というようなことではあるのだが。)
そして前田は、その関係をこれから内田と作って行こうと考える。
その未来に向かってのポジティブな感覚は
いままでの五反田団になかったものである。
内田が早朝突然家を出ていく。数日間、彼女は帰ってこない。
帰ってきた彼女の台詞から
不倫関係にあった男と旅行にいったのだということが伝わってくる。
そして、この旅行でその関係は終焉を迎えたこともわかる。
彼女が帰ってくるまで男はファミコンのRPGをやりながら待つだけである。
しかし、男はカメラを売って、そのお金で「カニ缶」を内田の為に買っていた。
舞台の始めの方で、内田がカニを食べたいと言っていたシーンが思い出される。
静かに心に訴えかけてくる瞬間である。