「どん底」のジャン・ルノワールを見て、残念に思っていたが
その思いが、間違いかも知れない、とこの映画を見て思った。
やはり、この時代まで語り継がれている作家には何かあるのだった。
私の目が濁っていました、すいません。
「大脱走」という映画の名作があるが、その映画の原点はここにあったのか!
と納得。第二次大戦前の映画なので
第一次世界大戦のときの脱走劇を描いているのだろうか?
ドイツ軍の捕虜となった将校たちが捕虜収容所から脱走しようと試みる。
最初の捕虜収容所では、トンネルを掘って逃げようというもの。
収容所の部屋の一角から地下へ掘り進む。
具体的な地下道の描写や実際に掘り進むシーンは出てこない。
ディテイルを描写したところが「大脱走」を
一級のエンターテイメント作品にしている。
掘った土を将校たちが収容所内の庭に捨てに来るところなどは
「大脱走」はそのまま流用しているんじゃないかと思えるほどである。
しかし、フランス軍将校たちは計画途中で収容所を移送されることになる。
ドイツの古城を改造したと思われる収容所。
移送の時の移動撮影が見事である。
この時代にここまでうまく移動撮影を成し遂げたのは画期的であろう。
また映画のスクリーンの端々から
画家を父親に持っているということがわかる
素晴らしいフレームングがなされている。
特に後半のドイツの山奥のスイス国境の近くの
未亡人女性の家でしばらく過ごすシーンは秀逸である。
高い場所から眼下に拡がる風景が一枚のフレームの中に収められている。
この映画の「大脱走」との大きな違いは、
古城から脱走した二人組みのその後を丹念に追うところ。
そして彼らはドイツの山奥の家で未亡人と残された娘とともに
足を怪我した将校の傷が癒えるまでを過ごす。
一人のフランス人将校とドイツ人未亡人は恋に落ちる。
国家を超えた愛が、戦争を凌駕する。
そして、我々は、戦争自体の持つ非情さを知る。
という意味でこの映画は戦争映画としての反戦映画である。
ジャン・ルノワールからのメッセージは強い。
戦闘シーンがほとんど出てこない戦争映画の原型がここで作られたのか?
復元プリントの状態がいいので映画に没頭できるのも嬉しい。