僕の落語鑑賞のお師匠さんのKさんからの強力オススメのもの。
先日Kさんに会ったときに「読んだ?」と聞かれ、
「ものすごく良かった!」とのことを聞いた。
出張の新幹線の中で読みきる。
立川談春はいまや、素晴らしい立川流の真打ちである。
志の輔、志らくと並び称される立川流の第一線の噺家と言えよう。
その談春が16歳で高校を辞め、立川談志に入門し、
新聞配達をしながら落語を学び、
築地の場外の魚河岸なんだけど
何故か餃子とシューマイの店で働きながら前座を経て
二つ目になり真打ちになるまでを書いたもの。
談春の文章の上手さにびっくりした。
キレのいい文章である。知性が溢れている。
特にいいのは語りをそのまま文章にしているところ。
様々な噺家さんたちの語りが出てくるのだが、
その話し言葉がいかにもその人が語っているような口調で書かれているのである。
いやあ、噺家さんの音声に対する理解力・共感力は凄いなと思った。
ここには談春の眼を通じた立川流の教えが全て書かれているように思える。
談志師匠が何故ここで怒るのか?へそを曲げるのか?
やさしく受け入れるのか?揺れるのか?芸とは?
談志の口から語られたドキュメントがここに採録されている。
ここから、芸の本質を見る事ができる。
「サラリーマンより楽だと思った。とんでもない、誤算だった。」という
本書の帯の腰巻の言葉を読んで、納得。
中味をじっくり読んで、さらにこの世界の厳しさを知る。
今月号の「本の雑誌」で今年の上半期ベストという特集を組んでいるが、
それの第1位がこの「赤めだか」である。
なるほど、これは読んでいて落語ファンでなくとも
十分に楽しめるんじゃあないかなと思った。
談春はじめお弟子さんたちが懸命に二つ目・真打ちを目指そうとしている。
その姿はいまや失われてしまった風景と言っても過言ではない。
弟子たちのどうしようもない生活と切磋琢磨の姿が描かれる
と同時に家元(談志師匠)との交流が描かれる。
ある種の変人とおも思える談志師匠と過ごす弟子たちも大変だが
談志も大変である。10名近くの弟子たちをとりながら、
定期的な高座を持たないという環境の中で
創意工夫しながら生きていかなければならないし、
落語を極めていかなければならない。
そのときの談志の苦悩はどれだけのものだったのだろうか?
と読んで想像させてくれるのである。
血のつながっていない濃い共同体の中から生まれる
家族的なものは確かにあるなと思った。
その家族的な光景が時々、談春の語り口から見えてくる。
泣けてくる。
その交流とどうしようもない若かりしころのエネルギーが
やり場のない場所で輝いている。
その姿とそれを厳しくそして温かく見守り続ける
談志の姿にココロが動くのである。