ファスビンダーの映画の中でも最も難解な映画である。
と、この特集で販売されていたパンフレットに書かれてあった。
また、テロリストをテーマにした喜劇であるとも。
どちらも言えてるし、言えてないなあと思った。
独特の印象が残る映画である。
テロリストはいったいどうなったのか?誰がテロリストで誰が殺されたのか?
そんなことが全くわからなくなってくる。
それでいいのだとファスビンダーはまるで
「バカボンのパパ」のように僕たちに語りかけているようである。
大体に於いてテロリストの第1世代、第2世代、第3世代
という違いがわからない。
第1世代は理想を語り、第2世代はそれを弁護する。
そして、第3世代は、今の社会や社会による暴力に共感している。
とファスビンダー自身は語っている。
テロリストはこのころ共産主義者的であったのかも知れない。
ベルリンの壁崩壊の10年も前の映画である。
彼は弱冠、34歳でこの映画を作った。恐るべきである。
ドイツの国内の事情がわかれば、
この映画の中で表されている諧謔的なものが
もっと見えてくるのかもしれないとも思った。
ドイツ演劇を研究されている新野守広先生が、
元ドイツの首相の名前を冠した道路の看板が出てきていました。
とおっしゃっていたのは、そのひとつの例示であろう。
オープニングのタイトルクレジットの出方がカッコいい。
カットインカットアウトで心臓の鼓動のような
リズムに合わせて出ては消える。
読めるだけの秒数を確保するために
同じタイトルが繰り返しカットインされる。
背景の実写はほぼワンカットで緩やかにカメラが動き、
様々なシチュエーションを活写しているのである。
そのセンスの斬新さには参りました。
僕の大好きな女優ハンナ・シグラが出ているのが嬉しい。
ファスビンダーは彼女を多くの作品で起用している。
学生時代に見た、「マリア・ブラウンの結婚」を見て思わず恋をした。
ドイツ・ジャーマン・シネマの新生と評されたファスビンダー監督は、
それから僕の中では独特の存在であった。
今回の映画は、好き嫌いが大きく分かれるだろう。
わけがわからないと言って腹を立てる人もいるかと思えば、
この感覚に浸り続けたいと思って見る人もいるのかも知れない。
音の使い方が面白かった。
雑音や音楽や効果音や台詞が交錯しながら
画面の中から大きな声を発している。
それは心地よいものではないだけに見るものを、
いや、聞きながら画面に釘付けにさせられる効果がある。
このような映画を吉祥寺バウスシアターの爆音上映会で聞けば
さらに面白いものになるに違いないだろうと思った。
ゴダール映画の音響監督フランソワ・ミュジーも驚く音の使い方である。