副都心線の「雑司が谷」の駅を降りると階段を上がった所に
都電荒川線の線路が見えてくる。
線路のすぐ脇には「雑司が谷」の駅がある。
踏切を越えると参道のような石畳の道路が見えてくる。
この日はあいにくの雨。
しとしとと雨の降る中を鬼子母神の境内へ、
この参道の建物はかなり昔に建てられたものが多く、懐かしい感じがする。
特に、鬼子母神の脇の仕立て屋さんにはびっくりした。
ここには確かに昭和の香りが残っている。
その昭和の香り漂う境内で、昭和の香り漂う唐組のアングラ芝居を見る。
今回の観劇は三浦一派の催しの一環でもある。
落語好きの人たちがアングラ。
中野での落語会のあとの飲み会からこの話がまとまった。
この「ジャガーの眼」という舞台は
唐組の十八番らしく何度も再演されているとのこと。
一緒に行った三浦一派のSさんは、以前見た事があると言っていた。
その時もとっても面白かったと。
会場は相変わらずのゴザが敷かれただけのもの。
最初に入っていったお客さんは一番後ろの椅子状になったところに席を取る。
2時間の上演で間10分の休憩が2回入る。
これくらいのインターバルがないと地べたに座って
延々と見続けるのには限界があるのだろう。
二十年以上前に見たときは休憩なぞは、なかったように記憶している。
唐組を見る年齢層も随分と上ってきている。
60代―70代のお客さんがたくさん見える。
また、唐組の素敵なところは、年配世代と、
同時に20代の若者たちも多く足を運んでいるということ。
幕が開くといきなり大きなサンダルが出てくる。
これは寺山修司のサンダルである。
そこからは唐さんらしいイメージが幾重にも連鎖し
つながり離れそして戻ってくる。
そのイメージの中で俳優たちは精一杯自分の役を演じる。
俳優として、決して上手いものばかりではないのに
エネルギーがほとばしっているので
俳優としての演技はどうでもいいことのように思えてくる。
手作りの美術がまたアングラさに味を添える。
物語は全て虚構であると言っているように思えてくる。
看板俳優の稲荷卓央が良く、
赤松由美はそのふくよかな身体から発せられる迫力に圧倒される。
久保井研はいつも上手く味がある。
今回、面白いなあと思ったのは、医師を演じた、丸山厚人。
彼はカールスモーキー石井にどことなく似ているのだが、
とぼけた感じが独特な笑いを誘う。
また大鶴美仁音がいい。
彼女は中学生の男の子を演じたのだが、
その語り口が昭和の映画に出てくる少年のそれなのである。
若いのにもかかわらず昭和な感じが出せる
個性的でチャーミングな俳優さんだった。
最後のテントが取り払われて境内の奥一杯に拡がっていくシーンが
濡れた床面とともに美しく輝いていた。
花園神社と違って静かで周囲が暗いので
さらに唐組の劇世界に没入できるのが鬼子母神の魅力だなと思った。