副題にこうある。攻めるものと守るもの、武器についての短編集。
作・演出の前川知大の成熟ぶりは尋常ではない!
7月に紀伊国屋ホールで行われた公演、「表と裏とその向こう」も素晴らしかった。
今回のこれは短編のオムニバス。
四つのエピソードから構成されており、合計すると2時間20分を超える作品となっている。
いつものようにどの時代の話なのか?
近未来と一言で片付けられない、独特の世界観が前川知大の脚本の中にはある。
エピソード1は、賽の河原で踊りまくる「亡霊」、
エピソード2は、やさしい人の業火な「懐石」、
エピソード3は、瞬きさせない宇宙の「幸福」。
このエピソードは前編と後編に分かれており、
その間にエピソード4が挿入される。
東の海の笑わない「帝王」。
どれも前川知大らしいエピソードに溢れており一筋縄ではいかないところが魅力である。
前川の演出はクールでシャープ。
そのシャープさがカッコいい。
良く切れる包丁のように舞台で様々な断片を切り取っていく。
そして演劇的な要素が満載されている。こ
れを映像化しても果たして面白いものになったか疑問が残る。
例えば、「帝王」。
新婚夫婦の話なのだが夫が感情を顔に出せないので妻が困って、
姉に相談をするというもの。
その夫は奇妙な性癖があり、喜怒哀楽が顔ではなく身体表現として現れる。
嬉しいと股が開き、怒るとかかとが上る。
そして哀しいと背中が痙攣し、楽しいと右手が上下する。
身体をこのように使って感情表現をする。
目の前で俳優が、それを行っているということで面白いものになる。
映画でやって果たしてこれが面白いものになるのかは疑問が残る。
妻はそんな夫の奇妙な性癖が、最初わからず、
夫のことを誤解して、この人は?
と疑うのだが、あるときにその性癖を理解しようとする。
すると夫の性癖はとっても分かりやすく
普通の人なら隠せる感情が全て出てしまうことに気付く。
妻はそんな夫を「可愛い」と思うようになるのである。
感情を表しコミュニケーションを取るということに対する
深い考察がここにある。
この奇妙で面白い物語を通じて、素直に人とコミュニケーションしていくための
原初的なことを感じることになる。
そのような隠された人間の姿が各エピソードの中に散りばめられているのが
イキウメの面白い魅力ではないかと思う。
「亡霊」では労働のやりがいなどが語られ、
「懐石」では人に優しくすることと信じることについて。
そして「幸福」では人間をとりこにする「麻薬」的なるものとは
生産的なものであるのか?
というようなことが折り込まれているのである。