井手さんがF/T(フェスティバルトーキョー)で公演を行った。
プログラムディレクターの相馬千秋さんの目に留ったのだろう。
井手さんはタイに行ってしダンサーや俳優をオーディションし6名のタイの人を選び、
本日初日を迎える公演を行った。
日本人ダンサー3人がそれに加わる。
井手さんを入れて10名でのダンス公演。
今回はイデビアンクルーの公演ではない。
タイは高速道路が縦横無尽に走っており車の渋滞は半端じゃない。
バンコク市内は1キロの移動に数十分かかってしまうこともある。
そこの「高架下」を見てまさに井手さんは今回の舞台の着想を得たそうである。
グレイの床には白いペイントが施され、まるで道路のようであり、
スポットライトが観客席に向けられている。
ライトは3つでワンセットになっているのだが、それは青、黄、赤といった三色の信号のよう。
天井には高架下を思わせるような無機質なステンレスパイプが放射状に伸びていて格好いい。
井手さんのダンスはコントとダンスを融合したようであるなといつも思う。
今回はその印象がさらに強かった。
面白いんだけど洒落ているという僕の一番好きな世界。
ダンサーたちがバラバラに踊りながら次々と踊り手の役割が変化していくところなどが面白い。
立ち位置によって踊りの型が移動していくのである。
それが流れるように行われるとダンサーからダンサーへ
踊りが伝播していっているように見えてくる。
またタイで井手さんと姿形がそっくりな人が見つかった。
彼が井手さんと同じ服を着てユニゾンで踊るシーンがある。
そこのシーンがむちゃむちゃかっこいい。
くまさんのような体型の二人が踊る。
動きがシャープで切れがいいのである。
実際に見るとこんなスピードで身体を動かしたり
コントロールしたりはなかなか出来ない。
そのように感じる瞬間に居合わせることで
新たなダンスの価値を感じるのである。
ダンスをライブで見ることはそこにある。
映像にしてしまうと、美しさだけが抽出されてくる。
勢いみたいなものがそぎ落とされてしまう。
また、今回はタイでの経験をもとにしたエピソードがいくつか散りばめられていた。
まず、タイ式マッサージのシーン。
必ず経験するだろうバンコクでのマッサージをダンスにするという発想はなかなか思いつかない。
また、タイの歌謡曲や、お坊さんがたくさんいること、
そしてたくさんのクルマが走っており交差点や道路をなかなか
渡れないことなどが様々なカタチで表現されていた。
タイの人たちがコントをするシーンも印象に残った。
タイ語で喋っているのだが、内容がわからなくても
その「間」や表情がとても面白いのである。
タイで作られている面白系のTVCMはいまや世界的に有名である。
タイ人の出演者の独特の表情や間が普遍的なおかしみを誘うのである。
井手茂太はそれを正確にわかっている。
3月20日まで。
この作品は今年中にタイで上演される予定だそうである。