何とも凄いものを見てしまった。
黒田育世率いるBATIKが笠井叡に構成・演出・振り付けを依頼したもの。
黒田育世を含めた10人のダンサーたちが全身全霊で踊る。
本当に一期一会というのはこのようなことを言うのだなと思った。
折り込みのリーフレットにこう書かれていた
「BATIKは逃げません。」
笠井叡の高いレベルの要求に逃げないで応え続けた結果がここにあった。
上演時間は休憩なしの85分。
ダンサーたちはほぼすべての時間でずっぱりで踊りっぱなし。
これでは1日1回の公演が限界だろう。
しかもBATIKの踊りである。彼女たちの踊りは激しい。
まるで気が狂ったかと思うばかりの動きが繰り返される。
これは完全な無酸素運動になってしまっているんじゃないか?と驚く。
運良く、当日券で前の方の席が取れたので間近でそれを見る。
まるで、アスリートの動きを見るようである。
言い方を変えるとこれは性交なんじゃないか?とも思った。
激しく性交しているシーンを見ているような気分。
身体を極限まで使い、その息遣いとともに聞こえてくる音と動きと表情は
見る者の心を揺さぶる。
苦悩に歪んだ表情からはまだまだこれからさらに踊りきるのだという
強い意思みたいなものが聞こえてくる。
客席に入ると舞台の真ん中に、ブランコのようなものが吊下げられている。
そこには黒い生きたカラスが座っている。
鳥類の首の動きは独特なものがある。
クイックイッと首を動かしながら静かに黒いカラスがたたずんでいる。
ブランコが天井に上昇していき舞台が始まる。
黒い衣装を着たダンサーたち、様々な黒の衣装で彼女たちは踊る。
髪の毛をひっつめなどにしないでそのまま踊るのがBATIKの特徴の一つでもある。
彼女たちは髪の毛を激しく揺らしながら踊る。
彼女たちはカラスの化身なのか?
様々な場所で様々な配置で彼女たちのダンスが繰り返される。
続いて衣裳が一転し、白い服に身を包んだ黒田が舞台後方で優雅に踊りだす。
舞台の真中には3本の大きな石組と思われるような柱が据えられている。
その距離感の表し方が何とも美しい。
F.シューベルトの交響曲第8番ロ短調「未完成」が流れる中、
白い服に身を包んだダンサーたちが踊る。
そして、圧巻は、黒田育世の踊る「ボレロ」だった。
後方に9人のダンサーがアンサンブルで踊り、
前方で黒田育世がボレロを全身全霊で踊る。
ボレロは全曲で20分弱。それを一気に踊りきる。
あの激しいダンスが延々と行われる。
しかも、音楽がどんどんと壮大に重厚になっていくのにつれて
ますますダンスも激しくなる。すさまじい死闘を見ているようである。
自分の限界をさらにさらに超えようとする姿。
マラソンの35キロ超え以上の狂気を超えた凄みを感じる。
恐ろしさを目の当たりにし、鳥肌が立つ。
このまま黒田育世は倒れて死んでしまうのではないか!とさえ思う。
「ガラスの仮面」でみた強烈な世界が再現される。
ボレロが終わったあとに暗転。
黒田の激しい呼吸音がシーンとした舞台に響き渡る。
人の生死の瞬間を見ているような気分になる。
決して気持ち良くみられるものではないかも知れないが、
そんな黒田育世の姿勢と生き方が好きである。
カーテンコールが鳴りやまない。
黒田は目に涙を浮かべすべてのものに感謝するようだった。
必見!29日まで。