市川準監督の実質的に遺作となった作品。
市川監督はこの映画の編集中にスタッフと飲みに行き、
その後、静かに息を引き取られたそうである。
47分の小品である。
小さなデジタルビデオカメラで撮影されたそうである。
カメラマンを特にお願いするというわけでもなく、
市川監督と助監督たちが少人数で撮影していったと後で関係者の方に伺った。
市川準事務所のご好意で上映される機会があり、見る事が出来た。
この映画はそういえば東京国際映画祭の「ある視点」部門にも出品されていたことを聴いた。
この小品を見ていて、やはり脚本がきちんと出来ていると
HDVの小型カメラで撮影しようがSFXを駆使しようがそんなことは関係がない
ということが良くわかる。
秋葉原から浅草までがこの映画の舞台である。
「ざわざわ下北沢」や「大阪物語」「東京兄妹」などの系譜につながる
市川ワールド。
ある地域から独特の視点を描き出す手法。
そんなことがとっても好きな監督でもあった。
街の何気ない風景のなかに詩情を見る人といったらいいのだろうか?
リリカルな音楽と相俟って、独特の情緒を醸し出す。
出演者は、関西の広告関係者、特にTVCM関係者の
知っている顔が多く出演している。
彼らがそのままで素直に演じており
それが映像として定着していることに驚く。
市川さんは、関西弁が好きなのだろうか?
この映画の中では東京との対比が描かれる。
関西弁と秋葉原。関西弁と浅草。
その対比が異郷の地での喪失感と孤独感を強調する。
関西弁を淡々と語ることで俳優ではないキャストの魅力が
喋り言葉としてにじみ出る。
それは決してやかましい関西弁ではなく
ある情緒をともなった関西弁として描かれる。
漫才の世界などでは描かれない、静かな関西弁の魅力が詰まっている。
犬堂一心監督の「ジョゼと虎と魚たち」にも似た静かな関西弁の魅力が
この映画にもある。
大阪から初めて出てきた妹(砂原由起子)は兄(鯖吉)を訪ねる。
兄は吾妻橋のたもとのダンボールハウスで「失踪生活」を送っている。
兄役の鯖吉がいい。
インテリの世捨て人とでも言うのだろうか?
その諦観にも似た会話が、知性と実際の生活との差を強調し味わい深い役となる。
兄と妹は浅草の飲み屋で兄の元彼女(元奥さん?)(三枝桃子)に連絡を取り、
久しぶりに再開する。
兄妹と兄の元彼女との三人の関係の揺らぎが面白い。
そして、妹は兄に「背広を買ってあげるわあ」と言って、
浅草の洋品店へ行く。
ラストシーンは、世界の不条理さを唐突に提示する。
秋葉原を舞台の冒頭に持ってきたことの意味がここにあるんじゃないかと
深く考えさせられるエンディングだった。
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