土田英生の戯曲。土田は奇妙な設定から生まれてくる、
奇妙な社会をコミカルに描くのが本当に上手である。
今年の土田はものすごい勢いで作品を書きあげ、
様々な場所で土田戯曲が上演されている。
そのレベルがすべて高いので驚いている。
そういう時期は確かにある。
今回のこの舞台を見て、
三谷幸喜の若かりし頃の良質なコメディを見ている時と同じような気持ちになった。
演出は青年座の須藤黄英。1976年生まれだから。今年、33歳になる若手。
青年座本公演は初演出だそうである。
「へそ島」という島にある製菓会社のお客様電話相談室のオフィスが今回の舞台である。
まるでリゾートのペンションのようなところ、手前にデッキが大きく張り出しており、
そこから海が見える。
ここのコールセンターの職員は休憩のたびにここのデッキに出てきては海を見ながら談笑をする。
コールセンターにはそんなにたくさんの電話がかかってくるわけでもなく、
のーんびりとした時間が流れている。
室長の男性と副室長の女性そして長野工場から異動になった帰国子女の女性。
彼らは本社から来た社員である。
そして現地採用の社員がいる。
東京にあこがれて東京に行ったことがない女性社員。
そして熟年の仕事熱心な地元主婦、永田さん。
元漁師だった男、彼は電話応対ではなく事務を任されている。
そんな6人だけの、コールセンターに
ある日、本社から二人の社員が派遣されてくる。
営業バリバリでやっていた稲本、彼が新しい室長に就任する。
そして前の室長は副室長になる。
組織が大きく変わると環境や人間関係も変わっていく。
それを土田はコミカルに描く。
そこから起きてくる独特のねじれとか、ゆがみといったものを
土田は上手に抽出するのである。
新室長と一緒にやってきた入社二年目の女子社員、後藤。
がんばりやさんの彼女は新室長と不倫関係にある。
この閉じられた狭い世界に、ある日変化が起きる。
なぜ、新しい室長が送り込まれたのか?
ある日、それが明らかになる。
この製菓会社で作っていた爆発的にヒットしている新商品に
ある種の有害物質が混入していたという。
最近メディアで本当によく取り上げられるような事件が起きる。
鳴りやまないコールセンターの電話。
本社でもコールセンターの対応時間を長くしてくれという要請があり、
現場はこれ以上は無理ですという。
その間に入って新室長は右往左往する。
このような状況から様々な本質的なことが語られる。
会社とは人生とはそして正直に生きるとは嘘をつかないこととは。
何が正しくて何が正しくないのか?
正義とは何なのか?
人間としての正義と会社員としての正義はどちらが大切か?
というようなことを、極端な状況から突き付けられる。
それがシリアスでなく笑いを持って伝えられる。
仕事熱心な主婦の永田さんが言う。
残業をするのは構わないが、正直に有害物質が混入していたと言いたいです。と。
嘘をつくことがつらいです。正直にお話しできないのがつらいです。と。
会社の方針として「今は調査中なので何とも言えません」
というのが会社側の正しい回答例とされる。
そのように言ってくれと本社の意向を伝えなければならない新室長。
なんちゃって帰国子女(2歳までバンクーバーに居たらしい。)だった藤原さんが、
ある事件をきっかけに変わろうとする。
嘘ばかり語っていた自分が、本
当のことを語ること、ありのままの自分を語ること、
取り繕わないメッキではない自分をきちんと出して向き合うように変わること。
そうすることによって藤原さん自身が解放されることが初めてわかった。
そうして本当のことを語ることで本当に大切なものが見えてくる。
すべての人に、
特に、社会人に見てもらいたいと思う舞台。
31日まで。