緒方さんがこの世界に入ったのは市川房江さんのお誘いがあったからという言葉を聞いた。
市川房江は女性が社会進出することに貢献している。
緒方さんは1927年東京生まれ。
聖心女子大卒業後米国の大学で学ぶ。もう80代。
彼女は1990年に国連難民高等弁務官に選出される。
御年、63歳の時である。
それから彼女は10年にわたりその任務を務めた。
年齢にかかわらず人によって輝く時代は違うだろうし、
同時にいくつになっても出来ることがたくさんあるのだな
という勇気をもらうことになった。
ジュネーブの本部で指示を飛ばすだけでなく
積極的に現地へ赴き肌で難民と触れ合い
問題を共有しそれを何とか解決していこうと奔走する姿に頭が下がる。
その情熱はいったいどこからくるのだろうか?
人のために働くということで、何かが得られるのだろうか?
また本書を読んでいると様々な地域で難民が生まれていることを実感する。
平和なんて言っているが、実際は、様々なところで紛争が起こっている。
同じ国同士でも、民族同士で対決したりする。
やった、やられた、の負の連鎖が、復讐の連鎖が止まることを知らない。
クルド難民、旧ユーゴ紛争、コソボ紛争、ルワンダの難民。
そして9・11が起こり、それ以前から起きているアフガン難民などなど
多くの事例とともに緒方さんは様々な体験を語っている。
それをNHKの記者である東野真が文章にして本書は生まれた。
もともとNHKの番組の取材から始まった。
いくつかの番組を経て東野さんは緒方さんに香興味を持った。
国連難民高等弁務官の仕事は大変。
難民キャンプではまずインフラの整備から始まる。
そして食糧、医療、教育がそこで行われるようにしていかなければならない。
そしてさらに難しいのは難民たちが自発的に自治の精神をもって
自ら動き始めなければ決してものごとは解決しないということである。
国連から与えられるだけでは、難民問題は決して解決しない。
そのために行政との折衝や各国の説得をするのも
難民弁務官の仕事と聞いて
ほとんど政治家に近い仕事でもあるな、と思った。
紛争が起きる原因について緒方さんが語った言葉が印象に残った。
引用する。
私は、社会的な公正が非常に大事な問題だと思います。
公正というのはすべてが平等という意味ではなく、もっと基本的なことです。
『ある特定の社会集団が非常に虐げられて、希望がない』という状況が、
紛争が起きる根本的な原因じゃないかと私は思います。
また、米国での緒方さんの勇気ある講演録が最後に掲載されている
そこで米国民に対して緒方さんが語った言葉がある。
アメリカは、今日、再び国際主義者であることを選択せねばなりません。
この大国に対して、このように堂々と言える姿勢はどうして出てきたのか?
多くの現実を見てきた緒方さんの本当の思いが込められているから
言えることなんだろうなあと思った。