Nさんから、この本を読んでいる間中、僕のことを思い出したと言われ、
プレゼントしていただいたもの。
果たして、どういう思いでNさんは、これを読んでいたのだろう?
と想像しながら読む。
本書は山本周五郎賞を受賞している。五つの短編からなる。
時代は江戸時代。
江戸時代のいつ頃だろうか?
読んでいると古典落語の人情物ではないだろうか?
というような気になってくる。
ここではヒーローは出てこない。
市井の人々が生きる姿が描かれている。
それもごく普通の人々。
よって武家のもつ、高潔さとか潔さみたいなものはない。
ねたみ、ひがみ悪口も言い、喧嘩もする。
しかしながら、そのなかで、ある時期、登場人物たちが
新たな気持ちで歩みだそうとする情景が描かれる。
また心変わりをして清廉潔白に、これからは生きようとする。
あるいは、二人の関係をこれから、変えていこうとする。
その意志の発露がすべての短編から見えてくる。
読んでいると、そのことで柔らかな気持ちになる。
人間は変化するものであるということが描かれる。
本当にそうだと思う。人間は変われるのだから、
その変ろうとしている人間を同時に赦すこともできるだろう。
そうすることによって人間関係も変化する。
その微妙な変化を、テーマを変えながら描いているのが
この「五年の梅」という短編集なのだな!と思った。
その中でも「小田原鰹」は秀逸。
これは江戸時代を舞台にした「人形の家」なのか!と思った。
イプセンの「人形の家」でノラが家を出たその後が描かれているの?
と思えるような設定。
やわらかでかすかな思いが、いつまでも続いているということに人間の滋味を感じる。
与えることによって人は変わり自分自身も変わっていくというのは本当に至言。
子供のいない僕などは、そのことに意識的でなくてはならないと思った。
与えることを忘れてしまってはいけない。そんな気がしている。
そして、すべてを受け入れていくこと。
そんな、ささやかだけど大切なことを本書は教えてくれる。
Nさんからの想いが逆に伝わってくる。