南河内万歳一座の内藤裕敬の戯曲を、青年団の平田オリザが演出したもの。
独特な印象を残していった1時間半弱の舞台だった。
いったいこれは何だったのか?というような白昼夢を見るような感覚がある。
エンディングのシーンが馬鹿馬鹿しいのにもかかわらず
何故か感動している自分を客観的に見て、
このシーンで感動している自分はどこかおかしいのではないか?
とすら思わせる。そんな変な魅力がある舞台となった。
南河内万歳一座のオリジナル作品を見ていないので、
この舞台がどのようなものだったのか?はわからない。
ただ、青木さん家の奥さんはいつまでたっても現れない、
というところは「ゴドーを待ちながら」のようでもあり、
内藤版のベケット劇がここで行われているのか?というような気分にもなる。
あるいは別役実の不条理劇にも似たナンセンスな笑いがこの空間を支配する。
不思議な気持ちになる。
舞台は三河屋という酒屋の裏庭のようなところ。
ここにビールケースが高く積まれている。
空きビンのものもあるし、ビールが実際に入っているものもある。
ビールケースを今回くらいじっくりみたのは初めてだった。
メーカーによってケースの色が違うこと。
サッポロは赤く、サントリーは緑、キリンはベージュでアサヒは青。
そしてさらに大瓶と中瓶、小瓶用のケースが別々にあることも分かった。
ケースの大きさは同じなのだが
瓶の大小により高さが少しずつ違うことも今回初めてわかった。
効率から考えられているものはやはり興味深くある種の美しささへ感じる。
その裏庭に新しくやってきたアルバイトの学生(山本雅幸)が挨拶をしに来る。
先輩からいろいろな注意点を聞かされる。
その会話の中に頻繁に登場するのが「青木さん家の奥さん」である。
この家に配達に行くことがいかに貴重なことであるのかが会話を通じて伝わってくる。
新人バイト君もそこに配達に行きたいと思うようになり、
そのための特訓が始まる。
その特訓とは。
この馬鹿馬鹿しい設定を青年団の若手俳優たちが懸命に演じる。
いつもの青年団よりも大きな声で激しい演技でぶつかり合う。
間近でそれが行われているので音と振動とともにその迫力が伝わってくる。
体当たりの演技はそれだけで人を惹きつける。
酒屋の娘(木引優子)がいい味を出している。
可愛い顔をしてどこかマゾヒスティックなところがある。
いわゆるツンデレとでも言うのだろうか?をクールに演じている。
眼ヂカラの強い俳優さん。
この裏庭にどくだみ的な花を添えるのが、
ニセ青木さん家の奥さんであり、双子の白川姉妹である。
エンディングの特訓シーンはこの舞台の白眉。
このシーンを見るだけでも価値のある、そして、奇妙な舞台だった。
27日まで。