本書を読むきっかけとなったのが、会社の同僚Kさんの言葉だった。
井上靖の小説「闘牛」(芥川賞受賞作)の話をしていたときに。
あれは、実話です。
あの人物のことについて書かれた本があり、むちゃ面白いです。
と聞いたのが本書だった。
ホイチョイプロダクションの代表を務める馬場康夫の手になるもの。
馬場康夫が以前、日立製作所の宣伝部にいたことをこれを読んで初めて知った。
ここで描かれているのは戦後すぐからバブルの頃に至るまで
様々なマスコミを通じて仕掛けていき、世間をさわがせた黒子たちの物語である。
彼らは一様に人間的に魅力があり、いまでいう
ゼネラルプロデューサーとでも言うべき存在。
ジェネラリストだからこそ出来る大きなことがある。
結局、体当たりで人にぶつかり交渉にあたり粘り強く
しかも強くその意志を持ちつづけること。
そういったことがモノや金も動かし、
人々の記憶に残る感動する出来事を作っていけるのだと思った。
基軸となっている話は1982年に浦安に開園した
東京ディズニーランド誘致と開業までの物語。
そこに至るには、
戦後すぐの毎日新聞大阪本社系統の夕刊紙が行った、
さきほど書いた「闘牛」での出来事から語られる。
井上靖の同僚だった男の名は小谷正一。
彼が行った「闘牛」興行は兵庫県の西宮球場で行われたが
天候が悪く散々な結果となった。1948年のことである。
そこからエンターテイメントビジネスの戦後史が語られる。
興行とはまた違った意味での
企業を巻き込んでのイベントを主軸にマスコミの変化と合わせて語られる。
民間のラジオ放送からTV放送へ、そして各種の国際イベント、
万国博覧会からディズニーランド招致に至るまで。
小谷正一と電通の鬼十則を作った、四代目社長、吉田秀雄との交流が描かれる。
小谷は様々な会社を渡り歩く。
ここで馬場はインテリやくざと書いているが、
それくらいやんちゃな方だったという意味だろう。
大きな組織に安住することなく自分のやりたいことを実現するために生きていった人。
読んでいると知っているそうそうたる名前がどんどんと出てくる。
戦後日本文化の一翼をこのような人たちが支えていたのかと思った。
ビデオプロモーションの草創期のことも興味深かった。
様々なマスメディアを横断するように小谷は活躍していく。
その部下として堀貞一郎がいた。
彼が実際に三井不動産時代に、ディズニーランドを誘致する。
彼は1953年に電通に入社している。
テレビジョンの幕開けとともに堀の社会人人生があった。
堀はその声の良さから様々な声の出演を行っていたということが書かれている。
当時は誰が何をやってもよかった。
そのおおらかさが面白いクリエイティブを生んでいったのだろう。
とにかく高度経済成長時代とともにエンタメビジネスに奔走した男たちの物語には、
そこからたぎる熱いものが感じられ、読んでいて元気になる。
いま、ドラマ「官僚たちの夏」が評価されるような感覚といったらいいのだろうか?
そして堀と一緒にディズニーを誘致したものが、
川崎千春と高橋政知だった。
ディズニーのフィロソフィーに共感しそれが好きでたまらないから
大きなリスクをしょってでもやり遂げるという想いがあってこそ
実現した戦後の奇跡のようなお話が楽しめる。
本書は、会社の前の図書館で初めて借りたもの。
図書館も悪くない。