戦後60数年経っても、戦争体験は強烈に前線の兵士には残り、
いまだに言えないこともあるのだな、ということがこの映画を見るとわかる。
戦慄するような話が出てくる。
戦争とは人を結局、動物にしてしまうのかも知れないという気持ちになる。
と、同時に、戦後60数年が過ぎた前線の兵士だった人たちは
齢80を過ぎ、90歳を過ぎ、死期が近くなり、本人もそれを覚悟するようになった。
そんな時だからこそ言える事実というのも同時にあり、
彼らの口からそうした言葉がきちんと出てくるということで、
戦争の責任の重さを感じ、
それはいつまでたっても消えていかないということもわかる。
本篇は当時のビルマ、タイなどで終戦を迎え、
未帰還兵となって現地に残って生活を続ける人々にインタビューを試みたもの。
ミャンマー国境の農村地区に住むもの、
チェンマイあたりのタイ東北部に住むもの、そしてバンコクに住むもの。
様々な未帰還兵とその妻と家族のことが戦争とともに語られる。
松林要樹の初監督ドキュメンタリーでもある。
製作が安岡卓治なので、きちんとした成果のある作品に結実している。
松林監督はこの取材を三年かけて続けたそうである。
妻を娶っても未帰還兵ということもあり大っぴらな結婚式などはできず
その場所でひっそりと暮らしている。
未帰還兵になった直接の理由はきちんとは語られない。
もちろん未帰還兵ごとにその理由はことなるのだろう。
日本軍に所属しているということが嫌になったのか、
そこにいた日本兵に愛想を尽かしたのか?
それとも、たまたま帰還列車に乗り遅れたのか?
けがをして現地にとどまり、そこで妻を見つけてそのまま居続けたのか?
最初、インタビューを拒否した老人がいた。
彼は現地で亡くなった旧日本兵の遺骨を収集し
40年間で約800体の遺骨を拾って、それを供養している。
最前線の兵士たちは戦争が終わって、長い時間をかけて帰還することになった。
補給や援助がまったくないまま最前線から
移動するときの困難さはどれほどだったろうと思う。
そして、上官の命令によって中国人の子供を皆殺しにしてしまった話とか、
同朋を食べざるをえなかったという事実が出てくる。
ここではその人肉食が飢えではなく、
ココロにその痛みを刻むことであると未帰還兵は語り始める。
実際の、その壮絶な現場はどのようなものだったのだろうか?
そういった現場を二度と作らないためにも
戦争は絶対に起こしてはいけないと思わせる、
奇妙な気迫に満ちた映画だった。
しかしながら、その気迫は見ているものの内なるところから起きるもの。
映像は、自然が豊かな東南アジアの風景が映される。
雨や風と一体となった家屋で家族とともにゆったりと暮らしている姿をみると、
帰還するのが良かったのか?未帰還でいたのがよかったのかは
それぞれ違うのだなと感じた。
この風景がいつまでも続くことが大切なことなのかもしれない。
蓮の花が時々映し出される。
それは、ここで亡くなったものたちの花なのか?それとも?
「花と兵隊」の意味とは?
未帰還兵の孫に「サクラ」という花の名前を付けた。
その孫とともに遊ぶ未帰還兵の妻(おばあさん)の姿が映し出される。