イノウエカブキと名乗ったこのシリーズ。松竹との共同製作。
いつも安定して観客を楽しませてくれる。
そのためには、かなりの時間がこの舞台には必要だなと
一緒に見に行っていたOさんとお話していた。
まさに。
中島かずきの書く物語世界に入っていくのに時間がかかるのである。
荒唐無稽な架空の国々の物語。
その関係などを理解するための時間。
その世界に没入すると、それはそれは、素敵な異世界が広がる。
今回の物語も最初、遣唐使の話かと思った。
その認識は大きくは間違っていないのだろうが
中島かずきは独特の神話的な物語に再構築する。
Oさんはこのストーリーは「岩窟王」に似ているとおっしゃった。
後で聞くと、デュマの「モンテクリスト伯」というのが
その原作の正式な邦題だそうである。
仲間に裏切られ島流しにされた男が、
その島から脱獄し、復讐を図るというもの。
ここでも、復讐の連鎖がテーマになっている。
上川隆也が復讐をする男、伊達土門を演じるのだが、
彼の怒りの原点が明確に見えない。
そこが、彼の復讐を弱いものにしている。
その復讐心を煽るのが「楼蘭族」のサジと名乗る男、堺雅人。
彼の起用でこの舞台がとっても魅力的なものになっている。
殺陣(たて)の動きが敏捷でこなれており、きちんと演じることが出来、
同時に俳優としての様々な顔を見ることができる。
俳優の中の俳優だなあ!と感心しながら見ていた。
彼に対比するように、稲盛いずみを守る若き武士として、
早乙女太一が登場する。
大衆演劇の若きルーキー。
福岡の劇団朱雀の二代目。弱冠18歳。
彼の中性的な美貌と殺陣の美しさには目を瞠る。
彼の固定ファンのような人がこの劇場にも来ていた。
大衆演劇の役者は、子供のころから、毎日舞台に立っており、
あの殺陣の動きの美しさは一朝一夕には取得できないと思った。
刀を水平にしながら回転し独特の回し方で刀をさばく!
その動きたるや!華麗で力強くかつ美しい。
こうしたジャンルから俳優さんがキャスティングされるのは大変喜ばしい。
いつもの新感線のメンバーのお笑い的な要素もありつつ、
さらに、山内圭哉や千葉哲也が効果的に機能している。
この安定感が、劇団☆新感線が固定ファンをつかみ続けているところなのだろう。
堺に復讐心を煽られた上川は、新たに国王となった稲盛を殺しに行こうとする。
以前はいいなづけだった二人が戦わなければならない悲劇がここで描かれる。
堺雅人の狙いは、国と国との戦争を起こすこと。
そのことによってどちらもが疲弊しほろんでいく。
堺雅人が「楼蘭族」に対して考えた復讐とはそのようなことだった。
恨みだけでは、何も生まない。
上川と稲盛の赦しのシーンがこの舞台のメッセージを浮かび上がらせる。
しかしながら、時はすでに遅かったのだろうか?
稲盛の叫びが闇の中に響き渡る。
3時間30分の大作。観終わって大満足になるのは、いかにも新感線らしい。
27日まで。