このトライアル公演も今回で8回目。雨がしとしとと降る中、森下へ。
住宅地でもある下町の森下は、温かい香りがする。
雨の降る住宅街が情緒的な感じを強くする。
黒田育世さんが丁寧なおじぎで迎えてくれる。
あの黒田さんにお辞儀をされるなんて!
見ていて、ひれ伏してしまうような踊りを見せてくれるアスリートのような人。
身体全体で感謝したい気持になる。
今回は3部からなる構成。
まずは、矢嶋久美子の「解放」。
最初、前かがみになった彼女は足をすっと伸ばしたまま
前かがみで地面に手をつけそのままの状態で移動する。
静かな時間が流れる。
ある瞬間、彼女の身体は「解放」される。
大音響のパンクミュージックにも似たリフの音が舞台中を包む。
身体を震わせるように彼女の身体は小刻みに揺れる。
突然音楽が止むとともに彼女の身体も静止する。
あとに残ったのは彼女の息遣いと静寂のみ。
そしてまた、彼女は最初と同じように前かがみの姿勢に戻る。
あの激しさは一体なんだったのかという遠い日の「記憶」のように。
続いて二人のダンス。中津留絢香が振付も。
もう一人のダンサーは梶本はるか。
ダンサーの衣装のことについて考えたくなるようなものだった。
上手の前方に立ったダンサーはマフラーをクルクルっと巻いている。
いまどきのマフラーの巻き方。
長いマフラーじゃないとくるくるっと巻くことは出来ない。
そこに彼女は立ちつくしている。
下手後方に脱ぎ捨てられて山になった洋服の山がある。
突然、その山の中からもう一人のダンサーが姿を現す。
動き自体はBATIKらしい激しい動きなのだが、
ここで表現されようとしている世界観がナチュラルでかわいい。
少女性をこのような方向で提示したダンスはBATIKでは珍しいと思った。
それが新たな魅力になっている。
二人で舞台真ん中で踊るのだが、音楽に合わせて、
ダンサーたちが回転したり突然前を向いたりする。
そのスピード感が尋常じゃない!
見ていていつまでも見ていたいというような気持ちになる。
手の動きから発せられるエレガントさと動きのシャープさが同居した魅力的なダンス。
役割が暗転した後に変化する。
これは実は一人の少女を二人で演じているのではないか?
そう「私の中のもうひとりの私」?
そのような印象のエンディングシーン。
可愛くも美しい魅力的な作品に仕上がった。
いつもレベルの高いトライアルを見せてくれ本当に価値のある試みである。
この日は笠井叡さんがいらしていた。
この後、いつも、飲み物がふるまわれる。
ダンサーたちがセッティングして紙コップに入れてくれたお茶を飲む。
こうして休憩時間になごやかに雑談が進む。
この公演のこうしたファミリアスな感覚が好き。
やさしさとかおもてなしと芸術との関係などについて考える。
BATIKの人やイベントに対する姿勢にはいつも頭が下がる。
ダンスを通じて本当の意味での一期一会ということがわかっているのだろう。
最後に、あの名作「モニカモニカ」を伊佐千明が踊った。
黒田さん以外があれを踊れるのだろうか?と心配していたが、
また違う意味でかわいく優雅なダンスになった。
しかしながら後半になると、かわいさから一転、
アスリートの全力疾走を見ているような感覚になる。
その懸命な姿、あられもない忘我の姿が、我々の前に現出する!
「生きている!」という感覚がそこから生まれて来る。
何も取り繕っていないダンスと身体がそこにある。
その感覚がストレートに伝わってくる。
そうして、またBATIKを見たいという気持ちにさせられる。