2009年の1月にオンエアーされたものが、
先月NHK教育テレビで再放送された。
「ETV特集・選」は多くの視聴者のリクエストなどをもとに作られる。
そして、ここで選ばれたものはどれも興味深く見ることが出来る。
HDDに録画していたものを今になって見た。
先月はBRTUTUSでも
「ほぼ日」と作った「吉本隆明特集」などが発行されていた。
吉本さんは80歳を超えてからは歩くこともままならず、
そんな吉本さんがみんなの前でいままで発言したことを
まとめてお話したいとお考えになったそうである。
糸井さんは晩年になってから吉本さんと親交を持たれるようになり、
吉本さんのお宅に伺ってその真意を問う。
本気ですか?
と吉本さんは
「やります、やらせてください、やりかたはお任せします」
と答えた。
文京区のお宅はシンプルな和風造りのお宅で廊下には手すりがしつらえており、
白い猫を飼っていらっしゃる。
玄関にあるシンプルな表札「吉本」と書かれているのがすっとして
シンプルでいい。
彼の頭の中以外はシンプルでいいのだという生き方の現れみたいだ。
そして2008年糸井さんは吉本さんの講演会を実行する。
場所は昭和女子大「人見記念講堂」。
ここに2000人の観客が集まる。
ぎっしりと団塊の世代と呼ばれるような方から若い世代までがつながっている。
「ほぼ日」の効果がこういうところに現れる。
午後二時、吉本さんは車いすで登場する。
目の悪くなった吉本さんに自宅からもってきたデスクランプを設置して
虫めがねを用意する。講演がスタートする。
吉本さんが考えて来たことをここでまとめる形でわかりやすく発表したい!
そんな気持ちに満ちあふれていた講演だった。
終戦時のことから講演は始まった。昭和20年8月15日から。
吉本さんは、構成表を見ながら朴訥とも思えるような喋り方で講演を始められる。
近代経済学を学ばれたお話を語る。
アダム・スミスの「国富論」がいかにすごい書物だったか!
ということを。
労働価値の定義をどのようにわかりやすく伝えたかの事例を持って紹介される。
吉本さん自身がこうして難しいことや深い価値のあることを
わかりやすく言葉にすることを理想にし、実行してきた人なんだろうなと思った。
この講演を主宰している糸井重里さんもまさに同じ。
難しいことをやさしい言葉でわかりやすく語れる人。
そういう人には無条件で尊敬のまなざしを向けてしまう。
吉本さんは、あるときから構成表をまったく見ないで天空を仰ぎながら熱心に語り始める。
「芸術言語論」に関するくだりで、吉本さんは日本の芸術とは
引き算をしていくところに特徴があるなどと俳句を例にとって語られる。
それが特徴であると。
吉本さんの熱心でかつ正確に喋ろうとする講演は
いきおい時間がかかり5時過ぎまで一気に喋り続ける。
途中で糸井さんが吉本さんの身体を気遣って、
お伺いに行かれるところがまた情愛に満ちあふれていて素晴らしかった。
吉本さんほど、芸術を愛し、そのことを言葉で伝えようとし続けた人は少ない。
かっこいいと思った。
とにかく一人でも多く1分でも長く自分の考えてきたことを
わかりやすく人に伝えなければならないという使命感の塊みたいな人の姿がそこにあった。
そして、この素晴らしい
講演がDVDになって発売されているらしい。
未見の方は是非!
感動します。