港区立三田図書館蔵書。
原題は、
The Business of Books : How the international Conglomerates
Took Over Publishing and changed the Way We read,
verso2000とある。
このタイトルに本書のポイントは表現されている。
著者のアンドレ・シフレンは編集者。1935年生まれ。
米国書籍出版社パンセオンを主宰。
1990年にザ・ニュープレスという非営利の出版社を設立する。
アンドレが55歳の時のことである。
アンドレが、50代半ばが自分が新たな事を全力で出来た
最後の年代であったという話は面白かった。
そして、最近そのような人に出会うことが増えた。
自分自身がそういう年齢になったからだろう。
経済産業省審議官をやめて農商工連携のNPOを立ち上げた人、
大手広告会社のAEから転身し、焼き肉やさんを開いた人
(4月15日つつじヶ丘にオープンです。)などなど。
そして、同時に、同じ職種でプロフェッショナリズムを磨き続けている人もいる。
どうやって生きて行くのかは自らの選択である。
そこには家族の理解というものが重要になる。
先日みた番組でのトルストイの話が面白かった。
トルストイは帝政ロシアのロマノフ王朝の貴族の子供として生を受ける。
彼は、地主として多くの小作を雇う。
あるとき、トルストイは小作の人たちとつきあっていて、
こうして農地を耕しながら作物を育てるということが
本当に人間的なことなのではないか?と思い至る。
彼は自らの土地を小作たちに分け与え、自らもクワを持ち農地を耕そうとする。
その時にトルストイは妻の猛反対にあったそうである。
晩年のトルストイは家族が離れ一人ぼっちになり
80歳を過ぎたトルストイは駅で野たれ死ぬ。
「アンナ・カレニーナ」や「戦争と平和」を書き残しながら、
彼の人生はいったいどのようなものだったのか?と同時に思う。
家族の理解があればもっとよかったのに。
日露戦争が起きた時、彼は戦争に反対し続けたという。
そしてガンジーに非暴力運動への感銘と励ましの手紙を書いているのだった。
高潔な人である。
先週のETV特集だった。
さて、本書は欧米が新自由主義を加速させることによって
出版業界もその波にのまれ、利益至上主義的な考え方が
出版のそもそもの理想をなし崩しにしてしまっているという事実を
戦後、ずーっと出版界の真ん中にいた著者が記したもの。
解説の中で、海外の翻訳業務をしている宮田昇はこのように書いていた。
出版とは、利益を得て社を存続させながら、
価値ある本を出版する信念を巧みに両立させることであり、
それに誇りをもちつづけることだという。
それを説いていた筆者が自ら主宰していたパンセオンを追われる。
大手資本の論理がその高邁な理想を許してはくれないのだ。
近視眼的に見ればそれは一つの方法なのかもしれない。
しかし、出版物は永遠に残る。
国会図書館には少なくとも残り続ける。
そのときに100年後200年後にも価値のあるものを
少しでも残そうという意思は尊重されるべきだ。
何故、そのようなことが出来なくなってきたのか?
という現状を考えてみると、奥深くてすぐにはわからない。
現在、出版業界自体も大変である。
キンドルが出現し、i-PADが売れている。
紙に印刷された出版という概念が覆えりそうになっている。
しかしながら、そのことは
マイナーな部数しか出ない言論や表現が
世に出る可能性が拡がっているということにもなる。
そこに、これからの出版業界の新たな希望を見出してみたい!
と思うのである。