明らかに現役世界最高齢の映画監督、
ポルトガルのマノエル・ド・オリヴェイラ102歳の時点での特集上映。
これは、「コロンブス 永遠の海」2007年という映画が
5月に公開されるので、その記念のための上映。
コロンブスは岩波ホールで上映されるのだが、
この特集上映はユーロスペースである。
ユーロスペースは本当に映画に対する愛のある映画館だなと思う。
マノエル・ド・オリヴェイラがコンスタントに映画を作り始めたのは
何と60歳になってからだという。
そんな遅咲きの監督がいるんだと思い驚く。
本人は1世紀以上をヨーロッパで生きてきて何を感じ考えているのだろう?
彼の深層に迫ったものを見てみたい聞いてみたい読んでみたいと思う。
今回の特集上映では自分自身が未見のものに絞って見に行った。
「わが幼少時代のポルト」2001年ポルトガル・フランス
「家路」2002年ポルトガル・フランス
「家宝」2002年ポルトガル・フランス。
オリヴェイラ監督がこれらの映画を撮った時には90歳代になっていたというのに驚く。
とともに、そのみずみずしい人生や人間の捉え方に感心する。
オリヴェイラ監督の映画には共通する品のようなものがある。
ヨーロッパのブルジョワ階級の人々にあるような品とでもいうのだろうか?
が必ず映画の中に一本筋が通っているかのように存在する。
ヨーロッパでエルメスなどの高級ブランドを身につける
階級の人々とでも言えばいいのだろうか?
上質なクラシック音楽を身にまとったそれらの映画を見ていると
どこかしら優雅な気分になる。
今回の特集上映のその他の「永遠の語らい」や「夜顔」なども同じような傾向を持っている。
そして、もうひとつの大きな特徴として、
オリヴェイラの映画はドラマチックなことが撮影フレームの外で起きているということ。
平田オリザが青年団の演劇について同じようなことを語っていた。
例えば「家路」ではカフェのシーンで足元だけを撮影していたりする。
そこに会話が流れ、二人の表情を想像させたりする。
そのような手法が何度も出て来る。
映画の映像の中にドラマチックなものを求める人には退屈かもしれないが、
そこには「アバター」みたいな映画とはまったく違った魅力がある。
人の想像力を信じる魅力と言うのだろうか?
そして、三つ目のポイントとして、映画が唐突に終わるということ。
まるで、人間の死のように。
ある瞬間オリヴェイラ監督の映画も突然終了する。その潔さが気持ちいい。
「わが幼少時代のポルト」では実際の昔の写真と再現された映像を加えて
自伝的な映画にしていた。学生で勉強をしスポーツをし
映画の道へ進もうとしたオリヴェイラ監督の青春がここで描かれる。
「家路」はある老練な俳優の話。
自分の道をゆっくり進んでいけばいいということが
やんわりと伝わってくる。パリの街が魅力的に描かれる。
カフェでの何気ないシーンがいい。
「家宝」はポルトガルのブルジョワの家督相続を含めた話。
そこに渦巻く昔からの怨念みたいなものが描かれる。
珍しくドラマチックな火事のシーンなどがある。
オリヴェイラ映画常連の女優、レオノール・シルヴィエラが
相変わらず魅力的。