“食”についての短編集。前川知大の快進撃は続く。
この短編集のシリーズは幾つかの断章で構成されるもの。
毎回、その中にあるテーマが含まれている。
今回は「食べる」ということについて。
ベジタリアン、マクロビオティック (Macrobiotic)などと言う言葉が出て来る。
いまほど、食に対していろいろな情報が飛び交っている世の中はない。
というのも安全で安心で健康的な食生活を送ることが難しくなってきているから?
村上龍が「100年のクジラ」という小説を書いた。
この小説は電子出版されて、美しいビジュアル付きで
しかも坂本龍一の音楽が付いていたりするということで話題になった。
最近、書籍も店頭に並び始めたが、
i-padなどで読めるということで話題の小説。
そこに不老不死の未来の話が出て来るらしい。
この本の紹介記事を読んで
今回の「食べもの連鎖」と似ているなあと思った。
本作にも、不老不死になった男の話が登場する。
その男の生い立ちから現在までが描かれる。
ある時期に男は飲血を始める。
戦後すぐは売血が通常のこととしてあった。
男は飲血を始め、男はその時から年をとらなくなる。
現在の男の年齢は117歳という。
見た目はどう見ても30代半ば。
板垣雄亮演じるそれは、それ以降、人の血以外のものを口にしなくなる。
男は料理研究家として生計を立てる。まったく食事をとらない料理研究家。
その男はマクロビオティックの研究家なんだろうか?
厚揚げなどを肉に見立てて食べさせる。
肉だと思って食べていた男が後に
あれは厚揚げだったと告白されるときの男の表情などが印象的だった。
本作は「食べる」ということに対する
哲学的な考察が演劇として提示されている。
前川の語り口は一筋縄ではない。
好きなものを好きなだけ食べるということの幸福みたいなことが
その裏に見え隠れして語られる。
飲血をして不老不死の若さを手に入れることが
はたして男にとって幸福なことだったのか?
肉をたべないで野菜だけの食生活をするということはどういうことなのか?
また、三章では、万引きを狩猟採集民族と置き換えて、
安井順平がスーパーに狩りに行く。
男は必要なものだけしか獲らない。まるで肉食獣のような。
動物は必要なもの以外には獲らない。
それ以上の狩猟は生態系のバランスを崩すだろうことを良くわかっている。
人間はどうだろう、取れるだけ獲って、食べるだけ食べ、
食べすぎて肥満したと言って食事を残し大量に獲って来た食事が破棄される。
日本で現在捨てられている食料は
7000万人が年間食べる量に等しいそうである。
一方で飢餓に苦しむ人たちがたくさんいるということも事実である。
この不公平さと人間の強欲が作るこの世界は
動物たちから見るとどう見えるのか?
自然の生態系バランスからみたら、
明らかに何かバランスが崩れて来ているように思えた。
どうする、人類?