副題は「ある永遠のコロニー」。
演出:クリストフ・マルターラー(スイス)舞台美術:アンナ・フィーブロック(ドイツ)
F/Tの目玉企画とも言えるこの舞台、
見終わってやはりF/T以外ではお目にかかれなかっただろう
奇妙で独特な印象を残した。
他の舞台や映画などを挙げても同じようなものを思いつけない。
実験的で前衛的なのだが、肩の力が抜けており
独特のヘタウマな感覚が滲みだす。
演出のマルターラーは、もともと舞台音楽をやっていたそうである。
ドイツ語圏の主要な劇場で作曲家・舞台作曲家として活動と書いてあった。
この舞台は彼の音楽家としての才能なくしては語れないだろう作品。
音楽的な要素と様々な音の要素がごちゃまぜになって呈示されてくる。
この作品は、好き嫌いがかなり分かれると思う。
なぜならば、舞台の中で嫌悪感を持つようなノイズ(音)が
かなりの気持ち悪さで迫って来る。
黒板に爪を立てて引っ掻いたりするような音や、
ドアのきしむ音がやたらと繰り返されたりする。
その気持ち悪さは俳優の身体の不自由さにも及ぶ。
俳優がズボンのサスペンダーを上手くクロス出来ないとか、
電気工事の職人さんが配線工事をしているのだが
電線がこんがらがってしまい、イラっとなって電線を
地面に次々と落としてしまうような行為が頻繁に起こる。
また車のガレージの開閉のぎこちなさもある種の狙いだろうか?
あるヘタウマなゆるさで貫かれているのは
俳優の選び方にしても同じ。
よくぞここまで個性的な俳優を選んだもんだというくらい
個性的な俳優ばかり。
一目見て美しいとか恰好いいとかいう人は一人も出てこない。
どこまでが真面目でどれだけふざけているのか?
と思った。
海外のCMの演出集団で「トラクター」というグループがいる、
またタイのCMディレクターでタノンチャイさんという
これも世界的に有名なディレクターがいるのだが
彼らのキャスティングの感覚に非情に似ている。
素人に近い変な人を起用するという意味では
「関西電気保安協会」などの大阪電通CMの秀作の数々、
東京でいうと「今さら人に聞けない、怒らせ方講座」を演出した
古屋雄作の作品などもその系譜になるのかも。
かっこいい海外作品の舞台鑑賞とは一線を画した舞台なのか?
と思いきや、実はその奇妙な人々がただノイズを奏でるだけではないのだ。
ときどき、彼らが合唱を始める。
教会音楽のようなおごそかなグレゴリアンチャントのような
美しく優雅なハーモニーが彼らの美しい声の調和とともに聞こえてくる。
時にはピアノの伴奏が入ったりオルガンやトランペットなど
楽器の演奏も同時に行われる。
ああ、綺麗だな気持ちいいなあ!という体験をしていると
また、いつの間にかまた日常のダルなノイズと不協和音に戻って行く。
そしてまた新たなハーモニーが生まれる。
また、本作はリーマンショック以降のヨーロッパ特にドイツ?
あたりが経済の衰退にむかう現在を描いている。
(ウィーン芸術週間2009の製作)
工場や銀行は閉鎖状態、物品は差し押さえをされ
税務署にもっていかれ就職先はない。
ただ彼らは唄って踊ることによって世界を享受する。
あ、これはもしかして「どん底」現在版?
と今になって思った。
音楽の力をマルターラーさんは強く信じている。
発行組織研究所と書かれた巨大な舞台美術は必見!
日本の演劇でこれくらいの大がかりなセットはなかなか出来ないだろう。