コピーライターをしているゼミの後輩Oさんと久しぶりに会った。
そのときOさんが読み終わったので頂いたのが本書。
文字は大きく読みやすい。著者の藤原正彦は数学者。
数学者が国のあるべき姿や国民のあるべき姿を語り、
それがベストセラーになっている。
最初は不思議な気がしたが、読んでみて納得。
数学者は数学しか知らない人という僕の思い込みは
大きな間違いだったと思い知る。
鎌倉時代から続く、武士道精神に一度たちかえって
現代の日本の日本人のありようを再確認してみようと言っている。
論旨は数学者なので、ものすごい論理的かと思ったら、
情緒的な部分が多々あり、
時には暴論とも思えるような発言にまで達する。
「おいおい、そこまで言うか?」などと思うのだが。
本人は気にする様子もなくズバズバと自分の信念に
忠実に語り続ける。
文中で気になったところを少し。
「最悪は『情緒力がなくて論理的な人』」。また、
「論理の出発点を正しく選ぶために必要なもの、
それが日本人の持つ美しい情緒や形である。」
「数学をやる上で美的感覚は最も重要です。
偏差値よりも知能指数よりもはるかに重要な資質です。」
「数学や文学や芸術活動などがどれくらい盛んかを見れば、
その国の底力がわかってしまう。」などなど。
藤原正彦は文学的、歴史的、科学的な教養があり、
その教養を縦横無尽に例示して
同じ事を延々と語っている。
しかし、美しいものがわかる、感じる情緒が大切と
語る姿勢は揺るがなく、格好いい。
自信を喪失しがちな日本人に向けて書かれている。
本当の価値がなにか見えにくくなった
今の日本で読むのに適しているとみんなが感じたのだろう。
このブームは何かなと考えたら、
「清貧の思想」という本がブームになった事があったのを思い出す。
丁度バブル崩壊で日本人が自信をなくした時に、
新しい右肩上がりではない価値観で僕たちに提示してくれた。
現在、長い長いデフレから脱却しつつあるように見える。
しかし、実はグローバリゼーション=アメリカ化が行き渡り、
富の二極化が進み、多くの持たざるものが増えている。
これはバブル崩壊時とは全然違う意味で、悲惨な状況である。
その状況を突破するための「品格」を矜持することを
言い続けている本書が、受け入れられない理由はない。