伊藤秀隆主宰のこのPK THEATERも4回目となる。
毎年、こうして続けていることに感心する。
このユニットは伊藤秀隆が演出を担当し、
座付き作家の清水智枝子が伊藤とともに脚本を練る。
清水は平成元年生まれ20代前半である。
これから何年も書きつづけていって欲しい。
続けることによってどんどん上手くなるし、
人生経験が積み重なることによって書けるようになることもたくさんある。
そういう意味では、創造をするものたちにとって
年を取るということは悪いことではない。
平田オリザも言っている。
青年団の主宰はあと10年くらいで後進に譲って、
演出家の仕事もある時点で辞めるかもしれない。
しかし劇作家はいつまでも続けて行きたいと。
それくらい、劇を紡ぐという作業が平田さんは好きなんだろう。
清水智枝子もあと何十年も頑張って欲しい。
今回の舞台は総勢35名が出演。
日暮里の「d-倉庫」という、スズナリを二まわりくらい小さくした小屋で
35名の俳優たちが出演して演じ、踊る。
伊藤は大人数のアンサンブルを効果的に使用していた。
アンサンブルの上手い使い方というと野田秀樹を思い出す。
いつも野田は大人数の動きをある種ダイナミックで美しいものにしていく。
大人数に芝居をつけるのはとても難しい。
伊藤はこれまでの4回の公演でそれがどんどんと上手くなっている。
冒頭の事件が起きるシーンの雑踏の描き方がいい。
無差別殺人が起きるシーンなのだが
多くの人がいるシーンだからこそなし得たもの。
またカーチェイスのシーンのメインの俳優と
アンサンブルの俳優との対比がとても良くできている。
物語は壮大で複雑。
無差別殺人を犯した女(緑川静香)は、
その後記憶喪失となり自宅を抜けだし教会に保護される。
犯人を追う刑事(豊田記央)。彼の弟はこの事件で殺された。
刑事は幼少期、父親のDVで育ち、暴力自体を回避する性格となる。
幼いころ、弟と母親はその父親から逃げ出す。
そんなトラウマを持っている。
3名の殺された遺族や関係者たちがそれに関係してくる。
そして、ついに緑川を豊田が追いつめるのだが。
同時並行して豊田の妻と豊田の部下との情事が描かれる。
そしてマスコミの対応がさらに複合的に描かれる。
連続ドラマならこれだけで多分1クール持たせるような内容の物語。
それを伊藤は100分以内で表現する。
まさにジェットコースター的な演劇である。
見ているものは、次は?次は?としているうちにエンディングを迎えることになる。
居眠りなどしている余裕はまったくない。
そういう意味でもものすごい情報量のある舞台。
さらにダンスや歌などの要素が入り、これでもか!
というくらいの圧倒的なチカラで進んでいく。
そういえば、つかこうへいや鴻上尚史にも似ているな!
と思った。
旧約聖書の「カインとアベル」の物語が暗示的に語られる。
この暗示とはいったい何だったのか?
兄は弟が存在しなくなることで平衡を保ったのか?
人は人を憎み赦す。
赦しの中からしか救いは生まれない。
アーミュッシュの人たちが家族を殺された。
彼ら遺族は、殺人を犯した犯人の家族のところに行って
私たちはあなたがたを恨みません、赦しますという実際の
事件があったことを思い出した。
『アーミッシュの赦し―なぜ彼らはすぐに犯人とその家族を赦したのか』(@亜紀書房)
に詳しい。