「公共劇場の運営」（パート２）ＳＥＰTレクチャー（＠世田谷パブリックシアター）

４回目の講座は圧巻だった。（長文です。）
この日は三重県文化会館事業推進グループリーダーで
演劇担当の松浦茂之さん！
そのお顔と話している内容。
目力（メジカラ）と言っていたその気迫はいつまでも記憶に残るだろう。
そんなお話を聞いた。

三重県総合文化センターは劇場が三つあり
そこに図書館と生涯学習センターとレストランがある
大きな公共サービスを行うところ。

松浦さんは最初、銀行マンをやっていたそうである。
為替ディーラーを６年間やっていたのだが嫌になって
２８歳で退職、その後、経営コンサルタントの会社に転職するも、
そのあまりに商業主義的な仕事に嫌気がさし
故郷の三重に戻ろうと決意した。
３０歳の時のことである。
そこで、この三重県総合文化センターに職員として入ることになった。

最初、入って失敗したなと思ったそうである。
この施設に夢を持って入ってきたのにかかわらず
その現状を見て愕然とされたそうである。
職員の７０人中半数は県の職員。
彼らは県庁のしきたりでものごとを考え、
プロジェクター１台の稟議を通すのに１年もかかる。
金も人事もまったく自由がなく。
ＰＣが普通に使用されていた２０００年に、
富士通のオアシスというワープロで書類を作成していた。

変化のきっかけは北川知事だった。
こういった施設などは自主自立せよとの方針が伝えられる。
そこから改革が始まる。
おかしいぞ、と思う様々なことを修正していく作業が始まる。
既得権益の集合体みたいな理論を
普通の効率的な考え方で進めていくというだけの話。
しかし、内部にいる人はそれが出来ない。
外部のしがらみのない人間がやった方がいいと
先頭に立って改革を推進する。

光熱費を削減し、実質人件費を削減、委託料を削減した。
固定費が下がることによって体力がつく。
ＩＳＯ９００１（品質マネジメントシステム）を導入したのもその時である。

そして体力をつけた後は、サービスの向上である。
施設の貸し出しをすることを、
許認可からサービスと捉える。
コンビニ支払いの導入や曜日割引などを導入。
さらには、ワンストップで
利用者のサポートをする「おまかせサービス」などを導入した。
これは、弁当の手配や看板の作成＆設置、
お花の手配から会場設営のお手伝い、チケット作成などを
全て代行してあげるというもの。
もちろん費用はかかるが、イベントをやろうとしていて
人手が足りないようなときにとても便利なサービスである。

三重県総合文化センターの職員の合言葉は

「片手にロマン、片手にソロバン」

となった。
それまで公共劇場の入場率は５割から６割が通常と言われていた、
ここの劇場は様々な努力によってそれを８割近くまで引き上げていった。

またこの劇場、３００人の小ホールがあるのだがほとんど使われていなかった。
青年団から「隣にいても一人 三重編」の演劇をやりませんか？
というオファーがあり、当時演劇制作のノウハウがまったくなかったが、
一人専属のスタッフをつけたそうである。
専属スタッフは自由出勤制とし、１５時から２５時の間とかに働く、
というようなことを始めた。

三重県で演劇を見る層を研究すると
演劇鑑賞会というのがどこにでもあるが、それはかなりの高年齢層となっている。
これからは若い人だろう！と調べてみると
大学に演劇部があるのは三重大くらいしかなく、ターゲットを高校生に定める。
そして三重県総合文化センターは
高校生に向けて演劇のワークショップを始める。
先生や生徒の啓蒙のために高校演劇の中部大会へ
バスを２台チャーターし二泊三日でお連れする。
春には２日間の講習会などをし、高校生向けの戯曲講座なども開催する。
その戯曲講座の戯曲の舞台が三重県の県大会に１位と２位に選ばれたそうである。

しかも高校生には三重に来る演劇を格安で見せることを
積極的に行っている。
「わが星」ままごと、や南河内万歳一座の舞台が５００円で見ることが出来る。

同時に演劇に出たいという人の意見を救うために
「演劇ワリカンネットワーク」というのを立ち上げる。
これは三重と愛知県名古屋市の長久手文化の家、
そして大阪富田林のすばるホールの三館が共同して行うというもの。
プロダクション業務とかのこまごまとしたことは
三重県文化会館が一手に引き受けその他の二館は
決められた予算を三重に委託するというカタチをとる。
１年に一回公募で出演者を地元でオーディションしキャストを集め
そこで上演する。
現在行われているのが、南河内万歳一座の内藤さん、
ジャブジャブサーキットの長谷さん、
そして太陽族の岩崎さん。
彼らがオリジナル台本を作って毎年場所を変えて行う
というシステムを作った。
そうすれば、３年は続けることが出来る。

　またさらに大胆な改革（劇団へ対するサービス）を松浦さんは行う。
さいたまの「きらりふじみホール」の事例を参考にしたらしいのだが、
２４時間ホールを連続使用できるという環境を整えることだった。
それは言い換えると劇場に寝泊まりできる環境を作るということでもある。
最初にその実験を行ったのが「柿喰う客」という劇団だった。
好きに使って何をやってもいいということで劇団に依頼、
彼らはスポーツ演劇「すこやか息子」という芝居をそこで作り上げる。
合宿しながら演劇を作る、しかも米とビールは提供され
自炊の設備も整っている。
ＩＨヒーターなどを導入し、火元の心配がないような設備とし、
松浦さんがここに一緒に泊まるということが行われたそうである。
年間５０日間も泊まり込めるこの方の熱意に恐れ入る。
こうした熱意を持った少数の人がいると
公共劇場は俄然活性化する。

惜しげもなく三重でのノウハウを披露して
それを他の公共ホールでも行って欲しい。
そうすることによって彼らの活動も大きく拡がって、
さらに活性化する。と松浦さんは考えている。

泊まり込みながら演劇の創作をしているところに、
ままごとの柴幸男などが見学に来る。
三重で「あゆみ」か「わが星」をやりたいと。
結局「わが星」の公演が三重で行われた。
この「わが星」は「Ｍ劇セレクション」と銘打ち、劇団にも優遇措置が行われる。
最低費用として５０万円を共済負担金として劇団に渡す。
さらにチケット収入の全てをカンパニー(劇団)に渡す
というカタチをとっているので三重に行って見ようかという劇団が
今後増えてくることが予想される。
また演劇のワークショップや上映会などをやり、
集客へ結び付けるお手伝いなども実際に行われる。

このような活動を通じて劇場への入場率が６０％から８０％へと向上した。
１２年前までは２０プログラムを１億円かけてやっていたものを、
６０プログラムを５０００万円で行えるようになった。

平成１６年の指定管理者制度の導入時にさらに大きな改革が起こった。
７年前のことである。
公募プレゼンして指定管理者を決めてください。
その代わり株式会社が運営するというような
スタンスでやりますと言うことを松浦さんたちがプレゼンした。
そこで得られたのはこのホール全体の経営を自由に出来るということだった。
結果、いただいた予算を自由裁量で使えるようにした。
物販はホール独自が運営し飲食店は地元の名店を誘致した。
「ブラックカレー」という名物料理が食べられるそうである。

　現在、三重県文化会館は２億円の事業を全て任せられており、
その中の演劇公演は松浦さんに一任されている。
これは、やりがいがある話だ。
実際に行うことは大変だと思うのだが
やりがいと楽しさがそこにはある。
それを天秤にかけたら松浦さんは「やりがい」なのだろう。
そういうタイプの方が公共劇場を活性化させる。
アート・マネージメントを行うための基本として
松浦さんが整備したことは

お金と組織と権限が現場にあるということ。

現場で工夫してやることによって
ダイナミックに変えていくことが可能であると。
松浦さんがここまでの改革を行うまでには幾多の苦難があったと聞く。

それを実現するには眼力の迫力と、
相手が根負けするまで主張し続けることが重要である、とおっしゃっていた。
アート・マネージメントに新卒などで入ってくると迫力がつかない。
公共劇場でアート・マネージメントをする人は
武道などを習うのがいいのではにか？
と冗談とも本気ともつかない話をされていた。

要はマーケティング（公演とは商品であるから、それをＰＲして客席稼働に結び付ける）を
きちんと行い、そのためのコミュニケーションスキルを磨くこと。
とおっしゃって、今回の魅力的な講座は終了した。

松浦さんは今もさらなる自由を求めて活動をし続けているのだろう。