世田谷パブリックシアター芸術監督、野村萬斉演出の舞台。
豪華なキャストである。蒼井優、美波、麻美れい、
白石加代子、神野美鈴、そして町田マリー。
女性ばかりの6人が登場する舞台。
最初、劇場に行って終演が16時半を過ぎると知った。
三幕場劇で休憩が二回の3時間半。
三幕に渡って20年の時間経過が描かれる。
サド侯爵という侯爵は実際に居たそうである。
彼のことについて調べて詳しく書き下ろしたのが
渋澤龍彦の「サド侯爵の生涯」(1964年刊)
三島由紀夫はそれを読んで翌年この「サド侯爵夫人」という
戯曲を執筆したそうである。
サドマゾという言葉があるが、その由縁はまさにこの「サド侯爵」から来ている。
いまではSMショーなどをやるショーパブなどもあるが、
サド侯爵は18世紀に生きた人。
あの時代に鞭を打って興奮し、ローソクを垂らされ
縄で縛られて興奮するというのはとても個性的なことだったろう。
特にフランスブルボン王朝時代、
キリスト教的な禁忌がたくさんあり、
カソリックの教えにも背くような背徳の行為を繰り返し、
サド侯爵は何度も投獄される。
その彼に何年も付き合った妻=レネ=サド侯爵夫人の物語が
この舞台である。サド侯爵は舞台には出てこない。
まるでゴドーのように彼らの台詞のみで出演するの。
サド侯爵のやって来たあれやこれやをサド侯爵の関係者が語る。
自由奔放な性癖の持ち主なので、その行為は常識を超えており、
その事実を聞くことによってドキドキする。
妹と関係を持ったり、妻と下男が…。
などというくだりはとてもスリリングである。
蒼井優の存在が光っていた。旬の女優らしい華がある。
彼女の発声や喋り方台詞の出し方間の取り方、
とても丁寧な演出のもとに彼女は演技をしているのか
天性のものによってそうしているのか?は分からない。
が、しかし、彼女のアウトプットを見られただけでも
十分価値のあること。
蒼井の母親役であり、世間の常識みたいな母親との対比がいい。
母親役の白石加代子はサド侯爵の性癖を嫌悪し忌み嫌う。
しかし蒼井優はそれも個性であり性癖を受け容れ
かいがいしくサド侯爵に尽くす。
侯爵が投獄されているときには何度も牢獄に足を運ぶ。
いわゆる変態の夫を持った妻と言う
俗な言い方も出来るかもしれない。
しかし、戯曲はその性癖を崇高な芸術的な知的な行為として描いていく。
パンフレットの中で現代美術家の森村泰昌も書いていた。
この戯曲はサド侯爵というフィルターを通して
三島由紀夫自身のことを描いていたんだろうな!
ということが良くわかった。
三島も自分の性癖と檄術的な行為と世間との間で葛藤していたんだろう。
ある新聞記事で今回の舞台について、野村萬斎が答えていた。
この舞台では「台詞の緊縛」を行うと。
三島由紀夫の華麗な装飾に満ちた台詞を
俳優の身体の内部まで組みこんで発話する。
そのことによって何かが見えてくるだろうと。
その試みの一部は成功した。その緊張感の糸が客席を緊縛する。
しかし緊縛するには世田谷パブリックシアターは余りにも広すぎる。
緊縛の糸が届く観客席の範囲があるのかも知れないと思った。
客席の隣に大巨匠CMディレクターのNさんが来ておりびっくり!
久しぶりにお話をすることができた。
3月20日まで。
PS:この日は3月11日。カーテンコールで野村萬斎さんが登場。
萬斎さんは1年前のこの日にフランスに居たそう。その時に劇場でカンパを集めたらしい。
1年後のこの日、観客に呼びかけた、ロビーで萬斎さんや他のスタッフが持っている
白いシーツに義捐金の募金をする。