2004年3月25日初版発行。
隈研吾のことについて深く知りたいと
興味を持ったのが昨年のテレビ東京の番組「カンブリア宮殿」だった。
村上龍と小池栄子が毎回、優れた経営者などを呼んで
彼らの足跡とともに彼ら自身について紹介していく番組。
ここで世界中を飛び回っているオジサンの姿が目に焼き付いた。
見た目は単なる普通のおじさん。
この番組のタイトルが「負ける建築で世界に勝つ!」というものだった。
負ける建築とはなんだろう?
とずーっと心の片隅に残っているものがあった。
隈研吾は、
東京ミッドタウンのサントリー美術館や
新しくなった根津美術館を手掛けている。
銀座のティファニービルも隈の手になるものらしい。
この番組で描かれた負ける建築について引用する。
ここでの負ける建築とは?
負ける建築①『地元の自然素材で建てる』
地元の特産素材にこだわる隈。
木の制約を活かしコンクリートとは違った建築が出来上がる。
人の目線を意識した伝統の日本建築は、
人間の謙虚な気持ちを思い出させる。
負ける建築②『環境に合わせる』
地元の景色と調和させ違和感を生まない建築を心がける隈氏
。環境との融合を図った建築の特徴は、建物が主張する建築ではなく、
周辺環境や地元の生活、文化も取り込む事で
周りに溶け込ませる建築であることなのだ。
建物だけが主張しない建築物を作る。
それが隈が現在目指していることなんだろう。
ここで書かれている定義は2011年のものである。
が、その考え方の元が2004年発行の本書に書かれている。
様々な角度から建築の歴史を語り、
建築のそもそもの原理を解き明かそうとする。
芸術と商業の中間にあるものが
まさに建築なのではないだろうか?
隈の言葉はまるで哲学書を読んでいるかのような抽象的な
表現が行われるのだが、
それらの言葉が意外にふっとこちらに入ってくる。
その魅力は何だろう?と思った。
各章の題名を見てもそう思うだろう。
1、切断、批評、形式、
2、透明、デモクラシー、唯物論、
3、ブランド、ヴァーチャリティー、エンクロージャー
というもの。
この各章を通じて彼は建築を解き明かそうとする。
ケインズの経済理論による公共投資をして
景気を良くしていくという思想にしたがって国は
ニュデイール政策などの対策を行った。
公共事業が発生し、その事業によって
建築が推進され景気が良くなる。
その時代はその政策が機能した。
しかし、21世紀になってくるとそのやりかたが機能しなくなってくる。
それをいち早く察知してこうした文章にして発表していった一人が
隈研吾なんだろう。
隈は本書で負ける建築についてこのように書いている。
建築を例にとった一番わかりやすい部分を引用する。
(P083)
建築においても、すべては「負ける」レトリックで語られはじめた。
思い込みのはげしいわがままな施主に負けた、奇妙な形の敷地に負けた、
理不尽な建築法規に負けた、工事予算のなさに負けた。
建築雑誌に並ぶテクストはさながら負け自慢であり、
泣き事のオン・パレードである。
相手を説き伏せて自分の思想を実現したなどという
テクストを書く人間は変人扱いである。
これを読んで広告と似てるなと思った。
広告には表現をする際に様々な制約がある。
そのなかで目一杯優れたものを作っていこうと
クリエイターたちはもがいている。
制約を逆に利用していこうと、その中で最大限の効果を出すことを考える。
そんなことが建築の世界でも行われ。
制約や環境や予算に寄り添った形で新たな発想をすることが
現在らしいのだと隈研吾は考えている。
また、本書は優れた現代批評書でもあり文化芸術評論集でもある。
建築家は自分の言葉で語る。
逆に、自分の言語を持たないものは建築家ではないのかも知れない。