通常の客席を全部取り払って平地にした劇場スペースの真ん中に
8メートル四方くらいの大きさの舞台がある。
客席はそれを取り囲む形で設置されている。
まるで円形劇場のようなしつらえ。
舞台の真中には大きな周り舞台があって
人力で回転する構造になっている。
いつもの東京タンバリンらしいポップで洒落た空間が
吉祥寺シアターに出来あがっていた。
作・演出の高井浩子は今回、30代の結婚をした女性たちに焦点をあてている。
現在をそのまま切り取ったような台詞が頻出する。
「ああ、あるある!」という台詞が随所に出てくる。
フレンチレストランで平日に8500円のランチを食べる
女性3名のシーンからこの舞台は始まる。
回転台に均等に配置されて外を向いて座っている女たち、
森田芳光監督の「家族ゲーム」を思い出す。
ギャルソンなども外に向いて立っており、
彼女の夫たちはその回転台をもくもくと押している。
まるで労働をしている男たちと、
ランチを楽しんでいる女たちが対比されるような構造。
こうした記号的な処理を施されたシーンで
典型的とも言える記号的な妻たちの会話が交わされる。
出て来た料理を携帯で撮影しようとする、専業主婦。
いまどき携帯!と語る残り二人の女たち。
一人は、どこかの会社で働いており、
一人は歯科医をしている。
いまは、スマホでしょう!
みたいな、どこかで聞いたことがあるような会話が繰り返される。
しかし、こうした日常の切り取りは、
単なる導入部に過ぎなかったことがわかる。
これは、新しい家族の形態を描こうとした演劇なんだな。
と感じた。
これからの家族や地域や友人たちの付き合い方みたいなものが
この舞台を通じて見えてくる。
「早春スケッチブック」などを初めとして家族の在り方をずーっと描いて来た脚本家
山田太一のことを思い出す。
そして、さらに山田太一以前に家族の在り方を描き続けていた映画監督、
小津安二郎を思い出す。
高井は現代の新しい家族の物語に挑戦した。
しかも、その演出の方法がとても演劇的な手法である。
観客はここでとても有効な演劇ならではの体験が出来る。
同じシーンが何度も繰り返される。
ある事件が起きるのだが、その事件が起きる前の顛末を
何度も何度も角度を変えて見せてくれる。
実際に舞台の見える角度をかえて、
人物関係の角度を変えた見方を呈示する。
そこから観客は総合的に、そこで何が起きたのかを推理しなくてはならない。
息の詰まるシーンが、洒落たトーンで繰り返される。
ここでは、また、家族の関係を中心に介護や成功、嫉妬、不倫、
子どもの教育のことなどが並行して描かれる。
いろんなことがありながらみんながそこにいて、
世代の違う人たちが集まる場所やコミュニティがある「幸せ」が
これを見ていると感じられる。
現代に住むわたしたちの
これからの生き方の一つの方向を感じさせてくれる舞台だった。
緊張感の途切れない1時間45分。27日まで。