平川克美の著書「移行期的混乱」に感銘を受け、
平川さんのブログ「カフェ・ヒラカワ店主軽薄」を読んでいたら、
ジュンク堂の「池袋店」で、平川克美が選んだ本のフェアをやっている
という記事が出ていた。
その紹介の中に出ていた1冊が本書だった。
図書館に申し込むとすぐにやってきた。
平川の紹介文は以下のように書かれていた
「本書の作者のような知性によってはじめて、
ビジネスや経済に知が通い始める。稀有の一冊。
だいいちスリリングで面白い。」
と。岩井克人といえば「会社はこれからどうなるのか」
「会社はだれのものか」というシリーズが印象に残っている。
「会社」というものを根源的に考えて
教えてくれたのがこれらの著作だった。
奥付には1985年1月10日発行とあった。
僕が大学を出て、就職をした年である。
当時、これを読んでもちんぷんかんぷんだったろうと
読了して思った。
というのも、本書は様々な事象に対する
論文やエッセイをまとめたものなのだが、
論文によっては難しすぎて何が書いてあるのか?
いまも、理解出来ない文章もあった。
ただ、本書はいくつかの論文が混在しているので、
頑張って読み進めていき、
新たな章に入ると理解出来るものもある。
冒頭の「ヴェニスの商人の資本論」はとても刺激的な話だった。
ここではユダヤ人とキリスト教徒であるイタリア人との関係の話、
信用取引やデリバティブの話、
そして貨幣とは経済とは?
の根本にあたる捉え方が描かれる。
経済哲学というものがあるとしたら、
その原理を岩井がわかりやすく解説している。
その経済哲学を、
有名なシェイクスピアの喜劇「ヴェニスの商人」の具体的な
物語を借りて述べている。
ここで語られるのは様々なものの持つ両義性である。
あっちを立てるとこっちが立たない。
Aの方面から見るといいことも、Bの方面から見ると良くない。
また、存在それ自体が自己矛盾をはらんでいる
ということも理解出来た。
ということは、いまのわたしたちに置き換えても同じこと。
たとえば、欲望の肥大化を抑えきれなくなった状態が長く続けば、
ある時期に何らかの破綻を迎える、それが世の常である。
バブル崩壊は必ず起きる。
この世界もこれ以上、肥大し続ければ…?
また、古代ローマでは、共同体の仲間に
金を貸す時には利子を取らない、というのも興味深いものだった。
これから未来に向けて
小さな共同体がたくさん現れそれが状況に応じて
有機的に関連して大きなプロジェクトなどを実行していくのではないか?
と言っている人がいる。
平川克美などもそうである。
その時に、共同体の内部での経済はどうあるべきなのか?
その仮説を考えることは、未来の新たな共同体を考える意味で
とても重要なことではないか?
そのためのヒントを、本書は与えてくれる。