前田司郎が描く時代劇!
って最初この演目を聴いたときには驚いた。
観終わって、前田が描くと「宮本武蔵」はこうなるのか!と感心した。
脱力系の笑いを主とする前田の作風は
本作でも受け継がれている。
しかし、その奥に秘めた人間に対する不信感みたいなものを
前田は彼流にえぐり出す。
三鷹に向かう電車の中で、朝日新聞出版から
前田の著書「濡れた太陽」(上・下)が出ている記事をたまたま読んだ。
へええ!高校の演劇部の話かあ?
そしてここに前田の演劇論が込められていると書かれてあり
とても興味をもった。
シンプルなセットはいつもの五反田団である。
上手に三畳の和室、ふすまが三枚。
下手に出たり入ったりする移動式のこれも4畳半くらいの舞台がある。
それだけ。シンプルな空間を
前田はある宿場町にしてしまう。
以下、ネタバレあります。
宮本武蔵(前田司郎)と伊織(金子岳憲)の対決シーンから舞台は始まる。
それを見ている佐々木小次郎(小河原康二)と千代(岸井ゆき)。
千代は義理の兄である亀一郎(大山雄史)とかたき討ちの旅に来ている。
そして、この街は宮本武蔵の故郷でもある。
おさななじみのツル(荻野友里)がここにいる。
ツルは旅籠の息子である村人タヌキチ(黒田大輔)と結婚している。
彼の母親であり、旅籠の女将(久保亜津子)が
現実的でイジワルな女将の役を好演する。
以上、8人の舞台。
前田が演じるのはカッコいい宮本武蔵ではない、
情けなく人間臭い男として描く。
実際の宮本武蔵像とはどんなものだろう?
吉川英二や井上雄彦が描く武蔵もこのような男なのか?
今回、始めて宮本武蔵の話を見てとても興味を持った。
早く自宅にある「バガボンド」を読まなきゃ。
浴衣めくりやツルへ寄り添っていくところなど、
面白くて情けなく笑えて悲しいシーンがいくつも描かれる。
前田の物語の構成力のたまものだろう。
タヌキチのエピソードもいい。
が、本作で前田が一番描きたかったことは、
人を殺しながら生き続けていく、ということは
何と大変で苦しく孤独なことであるのか!ということ。
エンディングにそのことがある事実とともに衝撃的に描かれる。
淡々と暮らす庶民の強さを前田は逆側(侍側?)からあぶり出した。
ものすごくアイロニーに満ちた作品となった。
そして、今回いちばん驚いたのは演出助手をYさんが担当していたことだった。
Yさんの物販での勢いがいいので、上演台本と著書「濡れた太陽」(上・下)を購入!
著書には、前田さんのサインを頂いた。
17日まで。