何とも演劇的な舞台だった。これは、演劇以外で表現出来ない。
演劇的な魅力をここまでのレベルまで引き上げるチカラに感服。
長塚圭史はロンドンの留学から戻って来て本当に
演劇らしい演劇というものを模索し続けているように思う。
その方向は野田秀樹(彼もまた演劇的なものを追及している。)が
志向するものとはまた違うベクトルであり、
それが長塚らしさかどうかは、いまのところ良く分からないのだが、
いつも何かしらの強い印象を残す舞台を作り続けている。
シアタートラムを四方から取り囲む形の舞台構成になっている。
真ん中にバスケットコートくらいの広さのスペースがある。
それをすりばち状になった観客席から見るという感じ。
客席は東西南北に分かれている。僕は南のブロックだった。
豪華なキャストである。
真木よう子を始めとして、
黒沢あすか、江口のりこ、梅沢昌代、植野葉子、安藤聖、
男性は赤堀雅秋、梶原善、加藤啓、小林勝也、管原永二、ペ・ジョンミョン、横田栄司
の13人が舞台に登場する。
ほぼ全編、俳優たちは舞台の上に出っぱなしである。
荷物と傘を持って彼らは舞台に登場する。
高速道路が渋滞しているという設定、休日の午後その大渋滞は起きる。
傘を差しそれを横に倒す。ボンネットとフロントガラスの出来あがりである。
俳優たちは自分の持ってきたカバンを傘の後ろに置いて
そこに腰かけたり、持ってきた座布団のようなものの上に座ったりしている。
それがある規則を持って並んでいると大渋滞の車列の風景に見えてくる。
こうした観客の想像力を最大限に引き出すことを長塚は行う。
これが冒頭にも書いた極めて演劇的な作法である。
だんだん、と観客はその約束事が分かって来て、その世界の中に没入して行く。
渋滞は延々と続き、季節を超え、冬になりまた暑い夏を迎える。
見ていて、これは被災地の避難所のようだと思った。
東日本大震災などで体育館などに避難した人たちの
ある一つのグループの話のような。
最初、何が起きたのか?という中で人々がどのように
秩序を形成していくのか?の過程が描かれる。
共同して水や食料を確保したり、みんなで集まってトランプをしたりする。
最初、自分たちのことだけを考えていた安藤聖とペ・ジョンミンのカップルが
変化しだす。安藤が身体の具合の悪くなった梅沢の面倒を見たり、
ペがみんなと一緒に共同で買い出しに行ったりする姿を見て
心の奥をこちょこちょとかかれているような気分になった。
心から何かがしみだしてジーンと刺激される。
とても印象的だったのがクリスマスのプレゼント交換のシーンである。
プレゼントしたいものを紙に書いて、それを歌を唄いながら回していく。
そして、歌が終わって、それぞれのプレゼントを読みあげる。
ここに書かれているプレゼントの内容は台本通りなのか?
俳優がその場で書いているのか?
プレゼントの実体は何もない。
しかし、そこには彼らの希望や想いが描かれている。
プレゼントを受け取ったものはそこに書かれていることを声にする。
聞いているものたちは、そのプレゼントを想像する。
何とも豊かで柔らかな世界が拡がった。
本当の幸せとはこうしたものであるのかも知れないと思わせてくれる。
そんなことが延々と描かれた舞台だった。
高速道路の渋滞というモチーフは単なるモチーフに過ぎない。
ある非常時に人々はどのように共同し
コミュニティを形成していくのか?ということがここで象徴的に描かれている。
真木よう子は顔が小さい!
24日まで。