ウォルター・マーチとの対話。吉田俊太郎訳。
この本の作者としてクレジットされている、
マイケル・オンダーチェはスリランカ生まれのカナダ人小説家である。
映画「イングリッシュ・ペイシェント」の原作となった
小説を書いた人というと分かりやすいだろうか?
原作の小説は1992年に英国のブッカ―賞を受賞した。
この作家は面白い人で小説の執筆の間に
まったく小説を書くこととは違う活動を行い、
また小説の創作に戻る、ということを続けているらしい。
本作もその一環で生まれたものである。
映画「イングリッシュ・ペイシェント」の編集を担当したのが
ウォルター・マーチ。
彼は世界的に有名な映画編集者である。
フランシス・フォード・コッポラの作品の多くや
ジョージルーカスの映画
そして、「リプリー」「存在の耐えられない軽さ」など、
そうそうたる映画を手掛けている。
その中でも超代表作は「地獄の黙示録」であり「ゴッドファーザー三部作」である。
マイケルは彼に興味を持って、本書の出版のために
何度もインタビューをすることになった。
この小説家は村上春樹に似ているな、と思った。
村上春樹も長編小説の執筆の合間にインタビューの本を出したり
翻訳を手掛けたりしている。
そして、その成果が小説家のもう一つの大きな活動となっている。
本書を読んでいて
村上春樹と小澤征爾の対談集「小澤征爾さんと音楽について話をする」(@新潮社)
のことがいつも頭から離れなかった。
誰が誰に対してインタビューするのかによって
その内容や結果は全然変わってくるということが良く分かる。
対談を深くするのもインタビュアーとインタビューイーの
関係によって変わってくるのだな!と思った。
優れたインタビュアーは対象のことについて良く知ったうえで
インタビューに臨む。
そうでない場合には長時間対象と向き合うことが要求される。
どちらにしても、長時間対象について考えるという行為は伴う。
その質が次に問われてくる。
考える質が質問や対談の内容となり、その質が出版物の価値を規定する。
映画編集者はありとあらゆる要素を整理し再構築していく。
その作業が編集という仕事である。
ウォルター・マーチはもともとサウンドデザインを
やっていたということもあり、映像作品の中での
音の構造をどのように組み立てるべきか、ということを知り尽くしている。
映像と音の要素が一体となって始めて映像作品となる。
ウォルターは多くの経験を経て、そのことを知りつくすようになった。
彼の凄いところはそうした映像と音の関係などを
冷静に分析し言葉で語ることの出来るところ。
この部分が映像編集者にはとても重要なのではないか?と思う。
それは映像に対する批評性とでも言うべきものなのだが、
そういった感覚をどこかで持ち続けていかなければ
優秀な映像編集者にはなれないのかも知れない。
本書にはたくさんのググっとくる言葉が溢れている。
ウォルター・マーチはシナリオも書き「OZ」という映画を監督もしている。
彼の該博な知識から繰り出される言葉は
まるで小宇宙のようだ。
映像編集者の究極の姿がここにある。
本書の定価は4600円!(+TAX)。
みすず書房なのでこの値段は仕方がないかもしれない!
が読み終わってとても満足。
でも私は図書館で借りて読みました。
すいませんすいませんすいません。