2006年初演のものの再演。再演は本谷有希子の仕事でも珍しい。
中年の女教師の役がとても重要。
前回は松永玲子が好演した。あれから6年が経った。
本谷は、6年かけて完全に文芸と演劇の二足のわらじをはく
作家としての地位を確立した。
しかし、そうした地位を確立しても突然
「遭難、」のような状態は起きる。
本作の主演は当初、黒沢あすかが登板する筈だった。
が、黒沢の体調不良に伴う降板で、
本谷はじめ制作部は大変だっただろう。
そして、黒沢の代役として何と男優である
管原永二が女教師の役を演じるという形で決着をつけた。
この大胆さに驚いたが、
管原で再撮されたチラシを見るともうどこからみても女教師である。
メイクをするというのは、そういうことだということを実感する。
ノーメイクの女性とばっちりメイクの女性というのは
まったく違う種類の生物なんじゃないかとすら思えてくる。
雨の降る中、副都心線の「池袋」駅から東京芸術劇場まで地下道を通って行く。
副都心線の開通によってさらに便利になった池袋。
3月16日には東横線と渋谷の地下でつながる。
寝過ごしていたら「元町中華街」ということもあり得る?
改装されて綺麗になったシアターイースト、椅子のクッションがいい。
舞台は職員室。窓がある壁がその前にあり
場面に応じてその窓と壁が上がったり下がったりする。
照明や美術・音響がきちんとしている。
プロの技術の上に立ち
本谷のヒリヒリするような物語が紡がれる。
最近、メディアでも話題になった
大津のいじめ事件を彷彿させるようなテーマ。
片桐はいりの息子が「いじめ?」を理由になのか?
学校で飛び降りをする。少年は意識不明の重体となり入院をしている。
担任の美波のところに毎日のように訪れて、
責任を追及する片桐はいり。
片桐は本当に存在感のある俳優だ。
片桐の演技に客席がビビッドに反応する。
片桐も演じていてとても面白いだろう。
片桐と美波のほかに、学年主任を務める黒一点の松井周。
若き女教師の佐津川愛美、そして管原永二
演じる女教師という5人芝居。
管原に宛てた、飛び降りをした少年からの手紙が発見される。
それを持っている佐津川が管原を追いこむ。
片桐は美波を追いこみ、さらに松井を追い込む。
人間の暗部をあからさまにしながら、
人間の弱さもひっくるめたものを本谷は描く。
誰が悪いとかいいとか、そんなものは状況次第で変わっていく!
と言われているような気がした。
誰もが加害者になりえるし突然、被害者にもなる。
そうして私たちは生きている、
そんなことを本谷は手堅い演出で描こうとしたのだろうか?
「遭難、」というあやうさの持つ
不安定な人間とその関係が
舞台上に現れ出た。23日まで。