作・演出 鴻上尚史。
鴻上が若い俳優たちとともに始めたこの「虚構の劇団」も
今回で8回目となった。
青春群像劇を書くのが鴻上さんは本当に上手い。
若者の出てくるエネルギーに満ちあふれた演劇
というジャンルがあるとすればその最右翼の作家と言えるだろう。
いつも、開演前に鴻上さんが手書きで書いた「ごあいさつ」
というのを読むのが面白い。
これを、読むと鴻上さんは文章を書くのが本当に上手だなとわかる。
そして、とてもやさしい言葉で
難しいことも語ってくれる。
「むつかしいことをやさしく」
という井上ひさしの言葉そのもの。
ここで鴻上さんは自らが英国へ留学していたときのことを語っていた。
英国で言葉もそんなに出来ず、孤独だった学生だった鴻上さん。
そんな彼に声をかける英国人の男が居たと言う。
「大丈夫かい?」
とその彼は明らかに上から目線で憐れむようにして
声をかけたと書いている。
鴻上さん自身がそれを上から目線だなと
感じながら、同時に、それを嬉しく思う自分が居た
というアンビバレンツな感情があるというのが興味深かった。
そこから。この「イントレランスの祭」に話がつながるのだが、
イントレランスというのは「不寛容」という意味。
特にここでは他者やマイノリティに対する「不寛容」として使われる。
お話自体は荒唐無稽である。
ある年、たくさんの宇宙人が地球に難民としてやってきた。
地球は各国で宇宙人難民を受け入れることにする。
日本国の割り当ては25万人。
この宇宙人たちはスライム状の不定形なカタチをしていたのだが
地球での生活にはなじまないと言うことで、
地球に住むヒトの任意の誰かをコピーして
メタモルフォーゼする。
そして外形は人間の状態として生活する
ということでやっていく、ということになった。(ややこしい)
その後のお話である。
いつもの俳優全員でダンスを行うという鴻上流の演出は健在!
この集団で行うダンスや殺陣のシーンが今回もとてもいい。
「ごあいさつ」に書いてあったのだが、この劇団にレギュラーで出ていた
女優の大久保綾乃と高橋奈津季が俳優を辞めると言って
退団したと書かれてあった。
魅力的な女優たちだったので、どうしたものかと思ったら
結果、最後に残った小野川晶が大きな成長を遂げていた。
今回、ヒロインを務める彼女も
最初からこの「虚構の劇団」に出演している。
今年でこの劇団も5年目になる。
彼女を見るだけでも価値のある舞台。
その周囲を達者な男優たちが固めている。
エネルギッシュなセリフ回しと動きで
鴻上さんらしさ全開!
人間の気持ちの
底には差別意識や外部のものにたいしての感情が流れている。
現在、日本は尖閣諸島や竹島などの問題で中国や韓国などと
ある種の緊張関係にある。
そのようなときにこうした「不寛容」を主題とした演劇を
やることの意味があるだろう。
鴻上さんは、それを徹底的なエンターテイメントに昇華していく。
例えば、この宇宙人たちは「人の外見」に対して異常に寛容である。
そこから笑いが生まれる。
笑いながら楽しみながら考えさせられる
演劇の基本と純粋さが詰まった舞台となった。
11日まで。その後大阪公演。