小林多喜二を題材に取った井上ひさし晩年の傑作。
と言われた作品の待望の再演である。
脚本家の、いまいまさこさんも絶賛の舞台。
時間を何とか作って天王洲まで行った。
モノレールに乗って浜松町の次の駅が「天王洲アイル駅」。
そこからはエスカレーターを下ってすぐの場所に劇場がある。
ので、雨に濡れることもなく駅から数分で劇場の椅子に座ることが出来る。
この劇場は現在「ホリプロ」が運営管理している。
芸能プロダクションが劇場を持つ。
所属俳優にとってはとてもいいことだ。
他にも、ジャニーズが所有する、グローブ座。
よしもとの新宿ルミネなどがある。
本作品もホリプロの若手看板女優の一人である、
石原さとみが出演している。
そして、本作の石原さとみは、とても魅力的だった。
石原さとみってこういう俳優だったんだと初めて認識する。
これからは、彼女が出演する舞台は
毎回見に行こうと思った。
本作品の初演は2009年。
その時とまったく同じキャストが集まった。
ホリプロオンラインチケットを覗いて見ると、
時間の都合がつく夜の回のS席は売り切れ。
3階席のA席が空いていたので予約する。
3階席の前から2列目。
しかし、いい舞台と言うのは
どこから見てもいい!という法則がある。
そうでない舞台はいい場所で見ないと、
なかなか良さが見えてこない場合が多い。
本作は見るものを圧倒するだけの強さがある。
それは、脚本、演出、キャスト、音楽、美術、照明に至るまで
丁寧に計算された舞台として完成している。
小林多喜二は、その生涯をプロレタリアート運動に費やし
29歳の若さで拷問され虐殺される。
拷問された時の多喜二は、これ以上文章が書けないように
右指の人差し指を折られ、身体の20か所には
錐(キリ)で刺された跡があったと言う。
遺族はその遺体を前にして、彼に対してどのような拷問が行われたかを知り、
それを丹念に記録していったそうである。
そういう時代だった。
そんな時代に生きながらも己の志を決して捨てず、
活動をし続ける小林多喜二の何たる生きざまか?
それを応援する活動をともにする女性同志(神野三鈴)。
北海道に身売りされた石原さとみを小林多喜二は見受けする。
それまで石原は酌婦として働いていた。
許婚(いいなずけ)以上、嫁さん未満の石原は、
多喜二の姉(高畑淳子)とともに上京し、多喜二のもとを訪ねる。
そこには、多喜二の権力と戦う激しい現実があり、
それを二人は目の当たりにする。
多喜二と同志の女性(神野)との関係を見て嫉妬しながらも、
多喜二のことを想い、その現実を受け容れていく石原さとみ。
彼女が多喜二に言う。
「小林多喜二君、絶望するな!」
と。
石原さとみは多喜二役の井上芳雄の肩に手を置き、
大きな声でしっかりと告げる。
もしかしたらこれが最期の別れになるのかも知れないという想いで。
また、多喜二を追う、二人の官憲(特高刑事)がこの舞台を
さらにふかいものにしていく。
山本龍二と山崎一演じる二人と多喜二との間に
ある種の人間的な交流が生まれてくる。
人間とはそういうところが絶対にある!
という井上ひさしの魂の叫びみたいなものが笑いを通して、
涙を通して聞こえてきた。
30日まで。3時間20分(間15分休憩あり)