森下は深川の北側に位置する。
森下の駅から北西方向に数分歩くと、古い倉庫のような建物がある。
そこがベニサンピットである。森下は昔ながらの名店が点在している。
居酒屋「山利喜」、蕎麦屋の「京金」、桜鍋の「みの家」、少し南に歩くと、
どぜうの「伊せ喜」、「魚三酒場」の森下店がある。
下町の人の少なさが、ちょうどいい。
歩いていても静かだし、人にぶつからない。
渋谷、新宿、池袋などとは明らかに違う東京がここにある。
そんな、伝統的で大人な街で、
アバンギャルドで新鮮な舞台が作られている。
この舞台は、何とも説明の難しい舞台なのだが、
とにかくその場所に行くだけで演劇的経験を強く味わえる!
開演は、ほぼ5分前。舞台の真ん中から客席にたどりつく。
ものすごい、変なセットが作られている。
美術・衣裳をヤニーナ・アウディックが担当している。
彼女が日本に来て面白いと感じられたものがコラージュされている。
それを日本人である僕たちがみて不思議な光景だと感じる。
日本独特の素材をルールを破壊して再構築している。
よくあるジャパネスクとか和風というものでなく、
「オタク」なものや「猥雑」なものが選択されている。
舞台上手に大きなスクリーンが吊るされている。
スクリーンにはホストクラブの看板が投射されている。
この舞台ではビデオカメラが有効に使われている。
4人のキャスト以外にカメラマン役の人が舞台にいて、
セットの中の役者を撮影している。
カーテンに遮られていて中が良く見えないのだが、
ビデオカメラが中にあり大きなスクリーンに映し出されている。
カメラは極端なクローズアップショットで役者の身体をなめるように映し出す。
宮沢章夫の「トーキョー・ボディ」「トーキョー・不在・ハムレット」と
同じような手法。
また、役者の発声も、マイクを通じて極端に抑えられている。
まるでベッドタイムトークのようである。耳元でぼそぼそと話される声。
また、カメラの視線がクローズアップなのでベッドの隣の女性を見ているような
身体感覚を感じることになる。
そのことが妙にエロチックでなまめかしい効果を獲得することとなる。
作・演出のドイツ人ルネ・ポレシュのテキストは言葉の断章である。
それぞれの言葉は強く印象深い。
しかしながら、言葉自体は連関せず、物語を決して作ろうとはしない。
また、今作は、アメリカ映画からたくさんのエピソードが引用されている。
そのことが逆に、「お金」と、「人間=個人」、「愛」と「性」との関係を、
あぶりだすこととなる。女優の池田有希子が光っていた。
俳優が発声することによって感動を与えてくれる稀有な例である。