副題は、ヒトラーに翻弄された指揮者が裁かれる日、とある。
演出は行定勲。原作 ロナルド・ハーウッド。
正統で見ごたえのある翻訳劇だった。
ベルリンフィルは世界で1番のレベルの演奏家たちが揃っており、
下手な指揮者がやってきて指揮などをしようものなら、
演奏家たちが勝手に演奏をしてしまう、
というくらい優秀な演奏家集団であると聞いた。
そしてベルリンフィルをそのレベルに押し上げたのが
指揮者のフルトヴェングラーでありカラヤンである、
と聞いたことがある。
本作はその指揮者、フルトヴェングラーに焦点をあてた演劇である。
終戦後、ナチスの人たちの行った罪を追及するために
連合国たちは戦争犯罪者と思われる人を取り調べた。
ニュルンベルグ裁判は有名である。
フルトヴェングラーはベルリンで生まれ育ち指揮者となり、活躍していた。
1933年にヒトラーがドイツの首相になる。
ヒトラーはフルトヴェングラーを寵愛する。
国家宣伝担当大臣のゲッペルスは、
彼をベルリンフィルの指揮者として重用する。
戦争が終了後、アメリカ軍の少佐(筧利夫)が彼を尋問する。
威厳のあるフルトヴェングラー役は平幹二朗。今年御年80歳!
声の元気なこと立ち姿の威厳のあることに驚いた!
ヒトラーはクラッシック音楽を愛し、今年生誕200年を迎える
ワーグナーなどもヒトラーからとても愛された作曲家であったと聞く。
映画監督のレニ・リーフェンシュタールも同様。
劇中に映像が流される。ナチスの党大会を記録したレニの映画「意志の勝利」
そしてユダヤ人の収容所の様子を記録した映像も!
あれはアランレネの「夜と霧」だろうか?
少佐がフルトヴェングラーを取り調べる前に証言する人たちがいる。
第2バイオリン奏者で元ナチ党員の小林隆と
夫がピアニストだった女性タマーラ(小島聖)。
彼らは口々にフルトヴェングラーには罪がないと証言する。
が、少佐は簡単には彼らの話を信じない。
徹底的にフルトヴェングラーを追い詰める。
彼はヒトラーに利用されナチズムの発展に貢献した!
ということを立証しようとする。
その丁丁発止のやりとりが緊張感を持って描かれる。
フルトヴェングラーは政治と芸術は別ものであるという
信念を持ちながら生きて来た。
その信念は揺らぐことなく続いて来ていたのだが、
国家は人の信念を乗り越えることがある。
不意に襲ってくる自然災害のように大きなチカラで突然。
結果は後になってわかるのだが、そのときに為す術はないのだろう!
自身がそこにいることだけで犯してしまった罪を知り
フルトヴェングラーはそれを一生涯背負い続けていかなければならなくなる。
背中に運命を背負って彼はオーケストラの指揮をやり続ける。
少佐の取り調べ室で一緒に働いている、福田沙紀と鈴木亮平は
フルトヴェングラーのファン。
彼らは敬意を持ってマエストロに接する。
少佐(筧利夫)はまったく逆の態度を取り、その対比が面白い。
芸術は人の気持ちを動かし人を動かす。
だからヒトラーやゲッペルスはそのことを利用したというのも事実である。
フルトヴェングラーは結局、そのことに自覚的だったのか、そうでなかったのか?
それは彼の戦争責任となるのか?
そういった「?」「?」「?」が無数に現れては消える舞台だった。
11日まで、その後、名古屋、大阪などを巡回。