副題は「ドキュメンタリーは『虚構』を映せるか?」。
昨年見た映画の中でダントツに印象に残った作品が本書の著者、
想田和弘が作ったドキュメンタリー映画「演劇1」&「演劇2」だった。
本書は、その映画を補完しさらに強化する。
そういう意味ではとても良く出来た、豪華パンフレットでもあり、
もちろん単体の書籍としても楽しめるものになっている。
この映画をどうして撮るようになったかという動機からはじまって、
撮影中の想田さんの考えていることがわかりやすい文章で書かれている。
副題の『虚構』を映せるか?
はまさにこのドキュメンタリー映画を撮影しながら想田監督が
考え続けて来たことである。
それは映画にもたびたび登場する。
人間はいくつもの「仮面」をもってその役割を演じていると平田オリザは語る。
青年団の平田オリザ自身がまさにたくさんの仮面を持って行動している人。
劇作家・演出家・大学教授・プロデューサー・青年団の経営者・演劇教育者
・芸術を世間に広める活動家、などなど。
そしていろんなシチュエーションで平田はそれを演じる。
想田はカメラをまったく意識しないで行動する平田に違和感を持ちながらも、
カメラを回し続ける。
そうしているうちにどれが本当でどれが演技でどれが本音なのかが
まったくわからなくなってしまうパラドックスに陥る。
その想田監督の気持ちがこの
「ドキュメンタリーは『虚構』を映せるか?」
という言葉に集約される。
本書は、その制作の過程が克明に描かれている。
本書は大きく2部構成となっており
後半は、「宇多丸(ライムスター)」という過激な
映画評論をするミュージシャンとの対話。
青年団の技術スタッフである、舞台照明の岩城保と舞台美術の杉山至との鼎談。
平田オリザ本人との対談。
青年団の俳優たちとの座談。
最後に、チェルフィッチュの岡田利規との対談という
演劇・青年団ファンならそれだけで大喜びの
コンテンツが収録されている。
ドキュメンタリーと演劇についてここまで考察した本は
他にないのでは?
あとがきを読むと岩波書店の編集者、田中朋子さんの
熱意があってこそのものなのかも知れないと思った。
田中さんは想田監督と東大の同級生だったことがあとでわかったそうだ。
田中さんは「全貌フレデリック・ワイズマン」という
貴重な本を世に出した人でもあることをここで知った。
多くの人の熱意が本書を作り、その熱意が確実に伝わって来るものとなっている。
ドキュメンタリーファン、演劇ファン(特に「青年団」系)は必読の書。