赤堀雅秋の最高傑作の一つと言える作品が完成した。
この完成度には参った。
楽日前日のラスト前の公演だったというのもあるのか?
赤堀は、大声を出すシーンがあるので声が枯れていた。
あれ?大丈夫かな?
と思って見ていたらこの声の枯れすら演出では?
と思わせるような妙なリアリティがあった。
昨年から今年にかけて赤堀雅秋は演劇で岸田戯曲賞、
そして初めて手掛けた映画「その夜の侍」(これも傑作です。)で
新人監督に与えられる、新藤兼人賞を受賞した。
十数年のコツコツと積み上げてきた結果が一気に花開いた。
確かにある時期、赤堀の仕事はある一線を超えて
大きく飛躍した。
本作もその延長線上にあり素敵なキャスティングで
ココロに深くささる作品となった。
決して後味が良くスカッとさわやかなものではない。
人間のココロの闇を照らしだしそれを
言葉やシチュエーションで置き換えて引き出していく。
そうしてそういった緊張感のあるシーンだけを
積み上げていき赤堀はこの作品を構築した。
死刑囚を演じる幼児大量虐殺犯人を演じるのが新井浩文。
何と初舞台とは思えない堂々として素晴らしい演技だった。
コアな映画ファンなら新井浩文の名を知らない人はいないだろう。
映画「その夜の侍」で山田孝之が演じた男と重なる。
こうした人間がどうして生まれたのか?
彼の深層心理はどうなっているのか?
この舞台は実際の事件をもとに書かれたとある。
ということはこの犯人のような気持ちを持つ人が
実際にいるということ。
その犯人の男の生活を含めたすべてに関して
赤堀は全身の想像力を駆使して肉薄しようとしている。
その葛藤の結果がこうした舞台とシーンと台詞になっていったのだろう。
死刑囚の新井の父は赤堀自らが演じる。
年下で美しくエロチックな母親であり妻を鈴木砂羽が演じる。
母親として、鈴木砂羽が自らが生んだ新井に対する態度がいい。
すべてを受け入れ息子がどれだけ非道なことをしても
赦し守ろうとするのである。
(以下、大きなネタバレ含みます。)
ある時期、そのバランスが崩れるのか
鈴木は廃人のようになり精神病院に入院する。
美しい妻と結婚し、二人の子どもを持ち、
マイホームを建てがむしゃらに働いた父親(赤堀雅秋)は
自らの夢をかなえたのだが、それが崩壊していく。
長男は自らの会社を興したのだが経営がうまくいかなく
借金を重ね最後には自殺する。
赤堀はその現実の中で生きて行く。
もうひとつの軸はこの家族以外に、
死刑囚である新井と獄中結婚をした安藤聖。
彼女は「死刑廃止を訴えるNPO」かなにかの職員で、
そのポリシーを実現させるべく
自らの家族を棄て新井と獄中結婚をする。
彼女の外からの視点が
この家族の構造をさらに強く浮かび上がらせることに成功した。
これを映画化したら凄い映画になることだろう。